夢をメモするからユメモ。秩序も筋道もないユメモ。
父が、仕事の関係でもらったと言って、黒いラベルの缶ビールを4本くれた。
父が普段愛飲しているものより、少し値が張るらしい。
父は美味しいものを、自分で食べずに子供にくれることが多い。
私は健康診断を受けていた。
専門学校の集団健診らしかった。
健康診断が終わって、休憩室のような場所で友人と話していた。
折り畳み式の長机が2本と、パイプ椅子がいくつか置いてあるだけの空き教室だった。
父にもらった黒いビールを飲みながら話していた。
友人もビールを飲んでいたが、ラベルは黒くなかった。
家族との食事について話した。
友人が、
「えーっ、ゆきちゃんちって全員同じテーブルに集まって食べるの!?」
と、驚いた。
「オレんちなんか、それぞれ好きな場所に持ってって食ってるよ。オレは自分の部屋で食う」
と友人が言うので、
「あんたんち何のために食卓があんの…」
と、苦笑まじりに尋ねると、友人は少し首を傾げて、
「う~ん…飯作るため?」
と、答えた。
私は、家庭によって様々だなぁ、と思った。
それから、健康診断の結果、専門院で詳しく検査するように言われたことについて話した。
指定されたというか、選ぶ余地がなかったその医院は、神経系の医院らしかった。
それは、黒いイメージの建物だった。
「今日帰りに行こうかな。それで検査の結果異常が何もないようだったら、歯医者に行こう…」
と、私は言った。
友人は、
「実はオレもその検査行けって言われたけど行ってない」
と言った。
友人は2~3日前に健康診断を済ませたようだった。
そこへ向かいの席にいた同級生が、やはりビールを片手に、
「何、お前らあの病院で再検査なの?」
と、話しかけてきた。
神経系と精神科をごっちゃにしている者が多く、その医院へ行く者は、キチガイとバカにされ、からかいの対象であった。
話しかけてきたコイツも、もしあそこへ通院するようになるなら、からかってやろうという魂胆が見え隠れした。
私はそういうことをバカバカしいと思っていたので、特に気にせず、再検査を肯定した。
友人にいたっては、全く気にしていなかった。
そこへたった今健康診断を終えたらしい人物が、
「ふーやれやれ」
といった感じで、やはりビールを手にして机に加わった。
長方形の机の隅に座っていた私の、左隣の辺の部分に座ったのは、大物タレントだった(ちなみに私と同じ辺の右隣は友人であり、その真向かいが同級生である)。
タレントはビールを飲みながら、私の方へ目をやり、
「何ゆき、黒ビールっていいもん飲んでんなぁ」
と言った。
私は、
「父が仕事の関係でもらったのをくれたんですよ」
と、答えた。
「お父さんも普段黒ビールなの?」
と聞かれたので、
「いえ、父は普段は別の…あっ、それです、それと同じのをいつも飲んでます」
と、タレントが手にしているビールを指した。
「お父さんコレが好きなの?」
と聞かれたので、
「んーと、特別こだわりはなくて、単に会社で扱っているのでそれを飲んでいるみたいです」
と答えると、いつの間にか斜め後ろにいた母が、
「あら、そうだったの?」
と、よそ行きの声で言った。
タレントの前なので、態度もよそ行きだった。
私は、
「うん、そうだよ。お父さん言ってたもん」
と、よそ行きの母に答えた。
父が普段愛飲しているものより、少し値が張るらしい。
父は美味しいものを、自分で食べずに子供にくれることが多い。
私は健康診断を受けていた。
専門学校の集団健診らしかった。
健康診断が終わって、休憩室のような場所で友人と話していた。
折り畳み式の長机が2本と、パイプ椅子がいくつか置いてあるだけの空き教室だった。
父にもらった黒いビールを飲みながら話していた。
友人もビールを飲んでいたが、ラベルは黒くなかった。
家族との食事について話した。
友人が、
「えーっ、ゆきちゃんちって全員同じテーブルに集まって食べるの!?」
と、驚いた。
「オレんちなんか、それぞれ好きな場所に持ってって食ってるよ。オレは自分の部屋で食う」
と友人が言うので、
「あんたんち何のために食卓があんの…」
と、苦笑まじりに尋ねると、友人は少し首を傾げて、
「う~ん…飯作るため?」
と、答えた。
私は、家庭によって様々だなぁ、と思った。
それから、健康診断の結果、専門院で詳しく検査するように言われたことについて話した。
指定されたというか、選ぶ余地がなかったその医院は、神経系の医院らしかった。
それは、黒いイメージの建物だった。
「今日帰りに行こうかな。それで検査の結果異常が何もないようだったら、歯医者に行こう…」
と、私は言った。
友人は、
「実はオレもその検査行けって言われたけど行ってない」
と言った。
友人は2~3日前に健康診断を済ませたようだった。
そこへ向かいの席にいた同級生が、やはりビールを片手に、
「何、お前らあの病院で再検査なの?」
と、話しかけてきた。
神経系と精神科をごっちゃにしている者が多く、その医院へ行く者は、キチガイとバカにされ、からかいの対象であった。
話しかけてきたコイツも、もしあそこへ通院するようになるなら、からかってやろうという魂胆が見え隠れした。
私はそういうことをバカバカしいと思っていたので、特に気にせず、再検査を肯定した。
友人にいたっては、全く気にしていなかった。
そこへたった今健康診断を終えたらしい人物が、
「ふーやれやれ」
といった感じで、やはりビールを手にして机に加わった。
長方形の机の隅に座っていた私の、左隣の辺の部分に座ったのは、大物タレントだった(ちなみに私と同じ辺の右隣は友人であり、その真向かいが同級生である)。
タレントはビールを飲みながら、私の方へ目をやり、
「何ゆき、黒ビールっていいもん飲んでんなぁ」
と言った。
私は、
「父が仕事の関係でもらったのをくれたんですよ」
と、答えた。
「お父さんも普段黒ビールなの?」
と聞かれたので、
「いえ、父は普段は別の…あっ、それです、それと同じのをいつも飲んでます」
と、タレントが手にしているビールを指した。
「お父さんコレが好きなの?」
と聞かれたので、
「んーと、特別こだわりはなくて、単に会社で扱っているのでそれを飲んでいるみたいです」
と答えると、いつの間にか斜め後ろにいた母が、
「あら、そうだったの?」
と、よそ行きの声で言った。
タレントの前なので、態度もよそ行きだった。
私は、
「うん、そうだよ。お父さん言ってたもん」
と、よそ行きの母に答えた。
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生徒会に入っていた。
校内では、ちょっとしたボヤ騒ぎが頻繁に起こっていたが、犯人がわからずにいた。
私には恋人ができた。
私の方は、その人のことが好きで好きで仕方がない、といった気持ちを持っていなかったので、多分相手から告白されたのだと思う。
相手は同い年の女性だった。
私が仲良くしていた男性教師の妹だった。
彼女も、生徒会役員の一人だった。
彼女と付き合い出してから、教師とはギクシャクするようになった。
というか、彼の方が私を避け始めた。
それは、妹の恋人だから気まずいという感じではなく、むしろ、自分と仲良くしていたのに…という焼きもちをやいたような、いじけているような態度に見えた。
時期は、体育祭間近だった。
私と彼女が二人で歩いていると、校舎と体育館の間の人気のあまりない屋外で、同級生の男子数人が集まって騒いでいるのを見つけた。
彼らは、写真の入った木製の写真立てに、灯油をかけようとしていた。
ボヤ騒ぎの犯人は彼らだったのである。
そしてそれは同時に、イジメとも呼べたかもしれない。
写真立てに入れられる写真は、彼らの気に入らない人物のものだったからである。
彼ら自身は、本当にふざけているつもりらしかったが、私は事態を重く見た。
彼らから写真立てを取り上げ、このことを教師に告げると言った。
彼らは、
「厄介なヤツに見つかった」
といった顔をしていた。
一緒にいた彼女は、
「そんなに大騒ぎにしなくても…」
と言ったが、私は聞かなかった。
その時から、彼女との関係がギクシャクし始めた。
私は灯油のかかった写真立てを持って、一人で職員室へ向かった。
職員室は体育祭前ということで、ごった返していた。
ある教師に写真立てのことを話したが、
「まぁただの悪戯だから…。ふざけてただけなんでしょ?」
と、とりあってくれない。
教師は忙しそうに体育祭の準備に追われていた。
私は、
「じゃあ校長先生にお話しします!」
と、その教師に見切りをつけて校長室へ向かった。
校長室は職員室と隣接しており、やはりたくさんの生徒がワイワイと出入りしていた。
私は校長へ押し寄せる生徒の波が途切れるのを待った。
そこへはちょうど、彼女の兄もいたが、気まずそうに私から目をそらしたまま、校長への用事を済ませてそそくさと離れて行った。
私は、彼女との距離も開き、仲が良かったはずの彼からも避けられ、学校があまり居心地の良いものではなくなってしまった。
やっと校長と話せる隙が出来たので、私は写真立てのことを話した。
校長は、たくさんの生徒が騒がしくしている中、私の顔を見て私の話を聞いてくれた。
写真立ては、校長に預けた。
先程とりあってくれなかった教師もそこへいたが、書類などをいじって、こちらを見ようとしなかった。
体育祭の前日、いよいよ校内は賑やかだった。
私は使われていない教室の前の廊下に、生徒会役員として集合していた。
彼女もいたが、私たちは言葉を交さなかった。
彼女は、別の役員と雑談をしていた。
私は、彼女との仲を修復したいと考えながら、窓の外を眺めた。
白い体操服に身を包んだ生徒が、大玉転がしの玉を準備していた。
視線を校内に戻すと、役員の一人と目が合った。
「ゆきちゃん、9日の準備もちゃんとした?」
と、彼女は話しかけてきた。
9日は体育祭の翌日である。
「9日の準備?」
と、私が聞き返すと、毎年「合宿」という名目で、生徒会役員は体育祭の打ち上げのようなことをするとの話だった。
私は、
「知らなかった!準備しなくちゃ」
と言って、生徒玄関へ向かった。
生徒玄関前の廊下は、体育祭の準備・練習をする生徒でいっぱいだった。
人の間を縫うようにして、私は玄関へ出て、自分の靴箱を覗いた。
靴箱には、普段履いているスニーカーと、その奥に予備のスニーカーが入れてあった。
予備を確かめるように、スニーカーの入った袋を開けると、入れた覚えのない、真新しい真っ白のスニーカーが入っていた。
明日の体育祭ではこの白いスニーカーを使って、合宿にはいつものを履いて行こうかな、と私は考えた。
でも新しいスニーカーだと靴ずれしちゃうかも…などと悩み、結局当日に決めることにした。
それから、
「あとは着替えを何枚か明日家から持って来ればいいや」
と思った。
そして自宅のタンスに入っている、カーキ色に近い緑と、明るいオレンジのTシャツを思い浮かべていた。
生徒の服装が半袖だったり、教師も上着を着ておらずシャツにネクタイのみだったり、私の思い浮かべたTシャツが半袖であることから、季節は初夏~夏であったと考えられる。
校内では、ちょっとしたボヤ騒ぎが頻繁に起こっていたが、犯人がわからずにいた。
私には恋人ができた。
私の方は、その人のことが好きで好きで仕方がない、といった気持ちを持っていなかったので、多分相手から告白されたのだと思う。
相手は同い年の女性だった。
私が仲良くしていた男性教師の妹だった。
彼女も、生徒会役員の一人だった。
彼女と付き合い出してから、教師とはギクシャクするようになった。
というか、彼の方が私を避け始めた。
それは、妹の恋人だから気まずいという感じではなく、むしろ、自分と仲良くしていたのに…という焼きもちをやいたような、いじけているような態度に見えた。
時期は、体育祭間近だった。
私と彼女が二人で歩いていると、校舎と体育館の間の人気のあまりない屋外で、同級生の男子数人が集まって騒いでいるのを見つけた。
彼らは、写真の入った木製の写真立てに、灯油をかけようとしていた。
ボヤ騒ぎの犯人は彼らだったのである。
そしてそれは同時に、イジメとも呼べたかもしれない。
写真立てに入れられる写真は、彼らの気に入らない人物のものだったからである。
彼ら自身は、本当にふざけているつもりらしかったが、私は事態を重く見た。
彼らから写真立てを取り上げ、このことを教師に告げると言った。
彼らは、
「厄介なヤツに見つかった」
といった顔をしていた。
一緒にいた彼女は、
「そんなに大騒ぎにしなくても…」
と言ったが、私は聞かなかった。
その時から、彼女との関係がギクシャクし始めた。
私は灯油のかかった写真立てを持って、一人で職員室へ向かった。
職員室は体育祭前ということで、ごった返していた。
ある教師に写真立てのことを話したが、
「まぁただの悪戯だから…。ふざけてただけなんでしょ?」
と、とりあってくれない。
教師は忙しそうに体育祭の準備に追われていた。
私は、
「じゃあ校長先生にお話しします!」
と、その教師に見切りをつけて校長室へ向かった。
校長室は職員室と隣接しており、やはりたくさんの生徒がワイワイと出入りしていた。
私は校長へ押し寄せる生徒の波が途切れるのを待った。
そこへはちょうど、彼女の兄もいたが、気まずそうに私から目をそらしたまま、校長への用事を済ませてそそくさと離れて行った。
私は、彼女との距離も開き、仲が良かったはずの彼からも避けられ、学校があまり居心地の良いものではなくなってしまった。
やっと校長と話せる隙が出来たので、私は写真立てのことを話した。
校長は、たくさんの生徒が騒がしくしている中、私の顔を見て私の話を聞いてくれた。
写真立ては、校長に預けた。
先程とりあってくれなかった教師もそこへいたが、書類などをいじって、こちらを見ようとしなかった。
体育祭の前日、いよいよ校内は賑やかだった。
私は使われていない教室の前の廊下に、生徒会役員として集合していた。
彼女もいたが、私たちは言葉を交さなかった。
彼女は、別の役員と雑談をしていた。
私は、彼女との仲を修復したいと考えながら、窓の外を眺めた。
白い体操服に身を包んだ生徒が、大玉転がしの玉を準備していた。
視線を校内に戻すと、役員の一人と目が合った。
「ゆきちゃん、9日の準備もちゃんとした?」
と、彼女は話しかけてきた。
9日は体育祭の翌日である。
「9日の準備?」
と、私が聞き返すと、毎年「合宿」という名目で、生徒会役員は体育祭の打ち上げのようなことをするとの話だった。
私は、
「知らなかった!準備しなくちゃ」
と言って、生徒玄関へ向かった。
生徒玄関前の廊下は、体育祭の準備・練習をする生徒でいっぱいだった。
人の間を縫うようにして、私は玄関へ出て、自分の靴箱を覗いた。
靴箱には、普段履いているスニーカーと、その奥に予備のスニーカーが入れてあった。
予備を確かめるように、スニーカーの入った袋を開けると、入れた覚えのない、真新しい真っ白のスニーカーが入っていた。
明日の体育祭ではこの白いスニーカーを使って、合宿にはいつものを履いて行こうかな、と私は考えた。
でも新しいスニーカーだと靴ずれしちゃうかも…などと悩み、結局当日に決めることにした。
それから、
「あとは着替えを何枚か明日家から持って来ればいいや」
と思った。
そして自宅のタンスに入っている、カーキ色に近い緑と、明るいオレンジのTシャツを思い浮かべていた。
生徒の服装が半袖だったり、教師も上着を着ておらずシャツにネクタイのみだったり、私の思い浮かべたTシャツが半袖であることから、季節は初夏~夏であったと考えられる。
小さな3階建てビルを管理していた。
1階は何かに使用しており、3階を事務所にしていた。
2階は使っていなかったので、私は自分の住居にしようと考えていた。
事務所には私を含め二人しかいなかった。
小さな事務所である。
2階に住もうと思うことについて、相談していた。
私の他に事務所にいるもう一人の人は、はっきりとした性別も顔も記憶にない。
短髪で、白いイメージの人だった。
発する言葉が酷似していたので、彼氏かもしれない。
「2階が空いてるから家にしようかなぁ、それともアパートにして住もうかなぁ」
と、私は言っていた。
多分、どっちでもいいんじゃない?というようなことを言われたのだと思う。
「家にしたいけど…お金かかるからやっぱりアパートにしよ」
と、私は決めた。
彼の運転する車で、ドライブに行った。
ある場所で車を降りて、土器について話した。
その土地で発掘された、特殊な形の土器である。
彼は、私が楽しそうに話すのに、「へぇ~」などと相槌を打っていた。
「その土器を復元した時はねー、ここの土だけじゃなくて、周りの隣り合った市の土もちょっとずつ使って、合わせて作ったんだよー」
土器が発掘されたのはその土地だったが、近辺でも使われていた可能性が高いことから、その辺一帯の文化とするために、そういうことをしたのだと思う。
しばらく土器について話しながら歩き、そしてまた車に乗り込んで、帰路につくことにした。
山に囲まれた場所で、紅葉がとても綺麗だった。
いくつか並ぶ山が、遠くの方から手前にかけて、紅葉色から緑のグラデーションになっていた。
手前の方の山は、まだ紅葉していないらしい。
山々にみとれていると、突然車がガクンと揺れた。
運転席の彼が、
「うわぁ、この坂意外に急だ!」
と言った。
前方に目をやると、なるほど急な下り坂である。
「こえー」
と言いながら、彼は注意深く運転した。
私も少し怖かったので、
「気を付けて運転してね」
と言った。
坂道を下りながら、
「家建てたいなぁ~、でもお金ないからアパートで我慢しよ…」
と、独り言のように私が言うと、
「どっちもそんなに変わらないと思うけど…」
と、彼が言った。
私は、
「えっ、そうなの!?もう決めて来ちゃったよ~…」
と言った。
そういうことは早く言ってよ、と思ったが、決めたことは仕方がないので、諦めた。
それから私は、まだ土器の話をしていた。
「でも、それ展示してある場所は遠いんでしょ?」
と、彼が言うので、
「ううん、さっきのとこにあった建物に展示してるよ」
と答えた。
「中入るの結構高いんでしょ?」
とさらに彼が言うので、
「んーとねぇ、土器のとこだけだったら無料だったと思うけど」
と言うと、
「えぇー…」
と言われた。
早く言えよ、という意味が含まれていたと思う。
彼はさほど土器に興味がある風でもなかったが、私が熱心にその土器の話をするので、見せられるなら見せてやりたいと思っていたのだろう。
しかしその時には、もうほとんど坂を下りきってしまっていた。
時間もあまりなかったし、この急な坂をまた引き返す気は、二人ともなかった。
※ちなみにこの土器の復元について私がしている話はデタラメだが、土器自体は実在する。
1階は何かに使用しており、3階を事務所にしていた。
2階は使っていなかったので、私は自分の住居にしようと考えていた。
事務所には私を含め二人しかいなかった。
小さな事務所である。
2階に住もうと思うことについて、相談していた。
私の他に事務所にいるもう一人の人は、はっきりとした性別も顔も記憶にない。
短髪で、白いイメージの人だった。
発する言葉が酷似していたので、彼氏かもしれない。
「2階が空いてるから家にしようかなぁ、それともアパートにして住もうかなぁ」
と、私は言っていた。
多分、どっちでもいいんじゃない?というようなことを言われたのだと思う。
「家にしたいけど…お金かかるからやっぱりアパートにしよ」
と、私は決めた。
彼の運転する車で、ドライブに行った。
ある場所で車を降りて、土器について話した。
その土地で発掘された、特殊な形の土器である。
彼は、私が楽しそうに話すのに、「へぇ~」などと相槌を打っていた。
「その土器を復元した時はねー、ここの土だけじゃなくて、周りの隣り合った市の土もちょっとずつ使って、合わせて作ったんだよー」
土器が発掘されたのはその土地だったが、近辺でも使われていた可能性が高いことから、その辺一帯の文化とするために、そういうことをしたのだと思う。
しばらく土器について話しながら歩き、そしてまた車に乗り込んで、帰路につくことにした。
山に囲まれた場所で、紅葉がとても綺麗だった。
いくつか並ぶ山が、遠くの方から手前にかけて、紅葉色から緑のグラデーションになっていた。
手前の方の山は、まだ紅葉していないらしい。
山々にみとれていると、突然車がガクンと揺れた。
運転席の彼が、
「うわぁ、この坂意外に急だ!」
と言った。
前方に目をやると、なるほど急な下り坂である。
「こえー」
と言いながら、彼は注意深く運転した。
私も少し怖かったので、
「気を付けて運転してね」
と言った。
坂道を下りながら、
「家建てたいなぁ~、でもお金ないからアパートで我慢しよ…」
と、独り言のように私が言うと、
「どっちもそんなに変わらないと思うけど…」
と、彼が言った。
私は、
「えっ、そうなの!?もう決めて来ちゃったよ~…」
と言った。
そういうことは早く言ってよ、と思ったが、決めたことは仕方がないので、諦めた。
それから私は、まだ土器の話をしていた。
「でも、それ展示してある場所は遠いんでしょ?」
と、彼が言うので、
「ううん、さっきのとこにあった建物に展示してるよ」
と答えた。
「中入るの結構高いんでしょ?」
とさらに彼が言うので、
「んーとねぇ、土器のとこだけだったら無料だったと思うけど」
と言うと、
「えぇー…」
と言われた。
早く言えよ、という意味が含まれていたと思う。
彼はさほど土器に興味がある風でもなかったが、私が熱心にその土器の話をするので、見せられるなら見せてやりたいと思っていたのだろう。
しかしその時には、もうほとんど坂を下りきってしまっていた。
時間もあまりなかったし、この急な坂をまた引き返す気は、二人ともなかった。
※ちなみにこの土器の復元について私がしている話はデタラメだが、土器自体は実在する。
ある大きな組織に属していた。
組織には彼氏もいた。
彼氏とよくつるんでいる二人がいた。
私たちは、組織とは無関係の個人的な意味で、仲間ということになっていた。
しかし二人は、彼氏のことを内心良く思っていなかった。
「大した実力もないくせに、上からチヤホヤされて調子に乗っている」
「自分たちと力はさして変わらないくせに、偉そうな態度がカンに障る」
というのが二人の言い分だった。
二人は、彼氏を陥れようと企んでいた。
「アイツに自分の本当の実力を思い知らせてやる」
私は、彼らの協力者を装った。
彼らは彼氏に無理矢理ハンデを課して、勝利を得ようとしていた。
しかし私は二人の汚い計画を、全て彼氏に伝えたので、企みは筒抜けだった。
やがて二人の計画が実行される日が来た。
私が事前に情報を流していたので、彼氏は罠にはまることはなく、ほぼハンデ無しの状態で二人に勝利した。
彼氏の実力を思い知ったのは、二人の方であった。
圧倒的であった。
「やっぱりお前には敵わないな」
二人は、彼氏と大体同じレベルのつもりだったが、そうではなく、彼氏が上から買われることにも納得したようだった。
私が情報を流していたことは、あまり責められなかった。
ハンデ無しで勝負し、力の差を知れたことは、彼らにとって、むしろ清々しいものだったのかもしれない。
ただ、建物から出るために4人でぞろぞろと、薄暗く人気のない階段を下りている時に、
「あーあ、ゆきには裏切られたな」
と、笑って言われた。
この建物は、二人が彼氏を陥れるために呼び出しただけの場所である。
こうした騙し打ちを仕掛けられたにも関わらず、彼氏は以前と同じように二人と接し、また二人も同様だった。
なので私もそうした。
二人の妬む心が消えた分、以前に比べて仲間としての繋がりが強くなったような気がした。
後日、4人で出かけることになった。
しかし私は時間に間に合わず、支度もそこそこに集合場所の駅へ向かった。
この駅は特殊で、電車に乗るのに少し技量が要った。
電車も普通の電車ではなく、遊園地のコースター、あるいはミニSLのように、天井がなく座席が二つずつ並んでいる乗り物だった。
乗り物とホームの間には深くて真っ暗な穴があり、足一つ分ほどの幅の細い石が浮かんでいた。
直方体のその石は、足を一歩踏むほどの面積しかなかった。
しかもブルブルと振動している。
石はある一定の周期で、振動と静止を繰り返していた。
ある石が静止した瞬間、彼氏がそれに足を乗せ、踏み台のようにして上手く乗り物に乗り込んだ。
踏まれた石は、穴の中へ落ちて行った。
一度使われた石は、他の者が使うことはできないのである。
座席は二人分並んでいるので、石も二つあったはずだが、彼氏が一つ落としたので私の使う分の石はポツンと浮かぶ形になり、余計に面積が狭いように感じた。
仲間の一人も、慣れた様子で乗り込んだ。
私が石の振動の周期を計りかねたり、躊躇しているうちに、乗り物は発車してしまった。
やはり同様に乗り物に乗らなかった仲間が、
「またすぐ次のが来るから大丈夫だよ」
と言った。
彼は私のように全く初めてというわけでもないが、あの石を踏んで跳ぶことが苦手ではあるようだった。
15分くらいで次が来るということなので、
「あっ、じゃあ私出るとき出来なかったから、この間にバッグの中整理しちゃおうかな」
と言って、バッグの整理をした。
夕方、私たちは組織の本拠地付近にいた。
私の自宅の側だった。
私のように力の不十分な者は、ここで訓練をすることになっていた。
彼氏と仲間二人は、組織の上級職と会議をしていた。
我が家の茶の間が、会議室として使われていた。
会議は正式なものではなく、ちょっとした話し合い程度のもののようであった。
外で訓練をしていた私は、少し休憩をするために、友人と一緒に土手へ寝そべった。
休憩をしながら友人が、
「ゆきは方術はわりと使えるが、剣術が苦手のようだな」
と言った。
ふと目をやると、川を渡る高速道路の橋の先にある山に、雪が積もっていた。
「あっ、見て、山が雪かぶってるよ!」
と、私は言った。
山にはふんわりとした綿がかぶさったようになっていて、本当に「雪をかぶっている」という表現がぴったりだった。
友人もうつ伏せのまま顔を上げ、私の言った方を見た。
しばらく眺めていると、対岸にあるその山に、小さな雪だるまがあるのがわかった。
よく見ると、雪だるまだけでなくかまくらや、家の形をしたものもあった。
それらにはそれぞれロウソクが入っており、付近の住人と思われる老人が、火をつけていた。
花火のようにパチパチと火花を散らして燃えているロウソクもあった。
ポツポツとともされたロウソクの炎は夕闇に映え、幻想的だった。
友人は、
「炎で雪が溶けてしまうだろうに、バカなことをする」
と言った。
彼女は地元の人間ではないので、ロウソクの炎程度では、雪だるまやかまくらが溶けないことを知らないらしかった。
「そういう風習なんだよ」
と、私は言い、
「今日がその日だったんだ~」
と、付け加えた。
友人は話を戻し、
「剣術の稽古をつけてもらってはどうだ?」
と、中で会議に参加している上級職の人物の名を挙げた。
その人物が特に剣術に秀でているという評判は知っていた。
「ゆきさん、稽古をつけてもらいたいなら、私から話を通しましょうか?」
と、背後から声がした。
腰まではある長い綺麗な黒髪の女の子がいた。
歳の頃は18といったところ、背が高く瞳の黒い美人である。
彼女とは特別親しくはなかったが、顔は知っていた。
彼女は、今話に上っている人物を特に慕っており、よくつきまとっていた。
私が返事もしないうちに、彼女は家の中へと姿を消した。
私は彼女を追い掛けて家に入り、「会議室」へ向かった。
会議はいかにも砕けた様子で行われていた。
私はその場にいた仲間とふざけ合い、はしゃいだ。
彼氏と上級職のその人物だけは、難しい顔をしていた。
というか、この二人は大抵仏丁面なので、別に難しい顔というわけでもないのかもしれない。
どういう話の流れかは分からないが、
「裏切りプリンセスはコイツっすよ~」
と、仲間が笑いながら私を差した。
彼氏をはめようとして、失敗した時のことを言っているのだと思った。
しかしそれは嫌味な感じではなく、本当にただふざけてちょっと構っているだけので私は気にしなかった。
私は、
「私は滅多に裏切りなんてしないも~ん」
と返した。
実際私には、彼らよりも彼氏の方が大切で、あの計画のときも最初から仲間のフリをしていただけなのだから、私にとっては裏切りではなく、ただの嘘つきくらいだと思った。
そうしてじゃれ合っていると、
「ゆき、ちょっと…」
と、上級職の人物に注意された。
気づけば会議には外部の人間も参加していたようで、見知らぬ二人が部屋の隅にちょこんと座っていた。
そういえば一応会議中だった、と思い出し、
「あっ、邪魔してしまってすみません」
と言い、慌てて部屋を出た。
外へ出ようとしていると、玄関で上級職の人物に呼び止められた。
「何か話があると聞いたが」
と、彼女に言われ、黒髪のあの女の子の言葉を思い出した。
剣術指南をお願いする話である。
しかし突然話しかけられ、心の準備ができていなかった私は、言葉を選ぶ余裕もなく、早く返事をしなければ、という思いで、
「あの…剣を…教えてください…」
と、実に稚拙な話し方をしてしまった。
「あ…朝、少しの時間でいいので…」
目上の人物に対してこのような言葉づかいしかできなかったことは、とても恥ずかしく、あきれられるのではないかと思ったが、彼女は特に気にした様子もなく、
「剣術の稽古をつけるのは構わないが、方術は別の者に頼んだ方がいいぞ」
と言った。
方術はとりあえずいいんです~!と、心の中で断りを入れつつ、あまり彼女の手を煩わせすぎるのも申し訳ないと思い、
「週3日くらいでお願いします」
と言おうとすると、彼女が先に口を開き、
「では早速明日の朝から始めよう」
と言った。
毎朝稽古に時間を割いてくれるつもりらしかった。
そうして彼女はまた会議室へ戻り、私は靴を履き始めた。
そこへ先程の黒髪の女の子が勢いよく入って来て、上級職の彼女の名前を呼んだ。
「聞いてくださ~い!」
と、随分機嫌が良さそうに彼女は会議室へ向かおうとした。
私は先程会議室で、遊び場のような態度で仲間に接し、注意されたことを思い出して、
「あ、今はやめた方がいいよ…」
と声をかけたが、まだ会議室の入り口は閉められておらず、名前を呼ばれた彼女が、
「どうした?」
と、こちらへ目を向けた。
黒髪の彼女は嬉しそうに持っていた紙を見せ、
「コレもらえたんです~!」
と言った。
それには彼女の自宅の電話番号が書かれていた。
それは彼女の親が、この組織の管理する住宅で生活することを許可したという証明で、それがなければ組織の本拠地内にある住宅には入れないことになっていた。
この組織でやっていこうと思う者は、遅かれ早かれその住宅へ住むのが当たり前であった。
それを見た上級職の彼女は、彼氏の方を向いて、
「お前はどうするつもりだ」
と尋ねた。
彼氏は、家族の賛成がなかなか得られずに、入りたくても入れないという境遇だった。
しかしいつまでも外で暮らしているわけにはいかないことも、誰もがわかっていた。
彼は若干眉を寄せ苦しそうに、
「親のことは必ずなんとかします」
と答えると、私の方を見て、
「ゆきも早めに許可だけはもらっておけ」
と言った。
私の方は、彼ほど反対を受けていないので、彼よりは早くその許可がもらえるという自信はあった。
彼の方の許可が下りたら、すぐに二人一緒に組織の中へ入れるようにという意味だった。
私は、
「うん」
と、うなづいた。
組織には彼氏もいた。
彼氏とよくつるんでいる二人がいた。
私たちは、組織とは無関係の個人的な意味で、仲間ということになっていた。
しかし二人は、彼氏のことを内心良く思っていなかった。
「大した実力もないくせに、上からチヤホヤされて調子に乗っている」
「自分たちと力はさして変わらないくせに、偉そうな態度がカンに障る」
というのが二人の言い分だった。
二人は、彼氏を陥れようと企んでいた。
「アイツに自分の本当の実力を思い知らせてやる」
私は、彼らの協力者を装った。
彼らは彼氏に無理矢理ハンデを課して、勝利を得ようとしていた。
しかし私は二人の汚い計画を、全て彼氏に伝えたので、企みは筒抜けだった。
やがて二人の計画が実行される日が来た。
私が事前に情報を流していたので、彼氏は罠にはまることはなく、ほぼハンデ無しの状態で二人に勝利した。
彼氏の実力を思い知ったのは、二人の方であった。
圧倒的であった。
「やっぱりお前には敵わないな」
二人は、彼氏と大体同じレベルのつもりだったが、そうではなく、彼氏が上から買われることにも納得したようだった。
私が情報を流していたことは、あまり責められなかった。
ハンデ無しで勝負し、力の差を知れたことは、彼らにとって、むしろ清々しいものだったのかもしれない。
ただ、建物から出るために4人でぞろぞろと、薄暗く人気のない階段を下りている時に、
「あーあ、ゆきには裏切られたな」
と、笑って言われた。
この建物は、二人が彼氏を陥れるために呼び出しただけの場所である。
こうした騙し打ちを仕掛けられたにも関わらず、彼氏は以前と同じように二人と接し、また二人も同様だった。
なので私もそうした。
二人の妬む心が消えた分、以前に比べて仲間としての繋がりが強くなったような気がした。
後日、4人で出かけることになった。
しかし私は時間に間に合わず、支度もそこそこに集合場所の駅へ向かった。
この駅は特殊で、電車に乗るのに少し技量が要った。
電車も普通の電車ではなく、遊園地のコースター、あるいはミニSLのように、天井がなく座席が二つずつ並んでいる乗り物だった。
乗り物とホームの間には深くて真っ暗な穴があり、足一つ分ほどの幅の細い石が浮かんでいた。
直方体のその石は、足を一歩踏むほどの面積しかなかった。
しかもブルブルと振動している。
石はある一定の周期で、振動と静止を繰り返していた。
ある石が静止した瞬間、彼氏がそれに足を乗せ、踏み台のようにして上手く乗り物に乗り込んだ。
踏まれた石は、穴の中へ落ちて行った。
一度使われた石は、他の者が使うことはできないのである。
座席は二人分並んでいるので、石も二つあったはずだが、彼氏が一つ落としたので私の使う分の石はポツンと浮かぶ形になり、余計に面積が狭いように感じた。
仲間の一人も、慣れた様子で乗り込んだ。
私が石の振動の周期を計りかねたり、躊躇しているうちに、乗り物は発車してしまった。
やはり同様に乗り物に乗らなかった仲間が、
「またすぐ次のが来るから大丈夫だよ」
と言った。
彼は私のように全く初めてというわけでもないが、あの石を踏んで跳ぶことが苦手ではあるようだった。
15分くらいで次が来るということなので、
「あっ、じゃあ私出るとき出来なかったから、この間にバッグの中整理しちゃおうかな」
と言って、バッグの整理をした。
夕方、私たちは組織の本拠地付近にいた。
私の自宅の側だった。
私のように力の不十分な者は、ここで訓練をすることになっていた。
彼氏と仲間二人は、組織の上級職と会議をしていた。
我が家の茶の間が、会議室として使われていた。
会議は正式なものではなく、ちょっとした話し合い程度のもののようであった。
外で訓練をしていた私は、少し休憩をするために、友人と一緒に土手へ寝そべった。
休憩をしながら友人が、
「ゆきは方術はわりと使えるが、剣術が苦手のようだな」
と言った。
ふと目をやると、川を渡る高速道路の橋の先にある山に、雪が積もっていた。
「あっ、見て、山が雪かぶってるよ!」
と、私は言った。
山にはふんわりとした綿がかぶさったようになっていて、本当に「雪をかぶっている」という表現がぴったりだった。
友人もうつ伏せのまま顔を上げ、私の言った方を見た。
しばらく眺めていると、対岸にあるその山に、小さな雪だるまがあるのがわかった。
よく見ると、雪だるまだけでなくかまくらや、家の形をしたものもあった。
それらにはそれぞれロウソクが入っており、付近の住人と思われる老人が、火をつけていた。
花火のようにパチパチと火花を散らして燃えているロウソクもあった。
ポツポツとともされたロウソクの炎は夕闇に映え、幻想的だった。
友人は、
「炎で雪が溶けてしまうだろうに、バカなことをする」
と言った。
彼女は地元の人間ではないので、ロウソクの炎程度では、雪だるまやかまくらが溶けないことを知らないらしかった。
「そういう風習なんだよ」
と、私は言い、
「今日がその日だったんだ~」
と、付け加えた。
友人は話を戻し、
「剣術の稽古をつけてもらってはどうだ?」
と、中で会議に参加している上級職の人物の名を挙げた。
その人物が特に剣術に秀でているという評判は知っていた。
「ゆきさん、稽古をつけてもらいたいなら、私から話を通しましょうか?」
と、背後から声がした。
腰まではある長い綺麗な黒髪の女の子がいた。
歳の頃は18といったところ、背が高く瞳の黒い美人である。
彼女とは特別親しくはなかったが、顔は知っていた。
彼女は、今話に上っている人物を特に慕っており、よくつきまとっていた。
私が返事もしないうちに、彼女は家の中へと姿を消した。
私は彼女を追い掛けて家に入り、「会議室」へ向かった。
会議はいかにも砕けた様子で行われていた。
私はその場にいた仲間とふざけ合い、はしゃいだ。
彼氏と上級職のその人物だけは、難しい顔をしていた。
というか、この二人は大抵仏丁面なので、別に難しい顔というわけでもないのかもしれない。
どういう話の流れかは分からないが、
「裏切りプリンセスはコイツっすよ~」
と、仲間が笑いながら私を差した。
彼氏をはめようとして、失敗した時のことを言っているのだと思った。
しかしそれは嫌味な感じではなく、本当にただふざけてちょっと構っているだけので私は気にしなかった。
私は、
「私は滅多に裏切りなんてしないも~ん」
と返した。
実際私には、彼らよりも彼氏の方が大切で、あの計画のときも最初から仲間のフリをしていただけなのだから、私にとっては裏切りではなく、ただの嘘つきくらいだと思った。
そうしてじゃれ合っていると、
「ゆき、ちょっと…」
と、上級職の人物に注意された。
気づけば会議には外部の人間も参加していたようで、見知らぬ二人が部屋の隅にちょこんと座っていた。
そういえば一応会議中だった、と思い出し、
「あっ、邪魔してしまってすみません」
と言い、慌てて部屋を出た。
外へ出ようとしていると、玄関で上級職の人物に呼び止められた。
「何か話があると聞いたが」
と、彼女に言われ、黒髪のあの女の子の言葉を思い出した。
剣術指南をお願いする話である。
しかし突然話しかけられ、心の準備ができていなかった私は、言葉を選ぶ余裕もなく、早く返事をしなければ、という思いで、
「あの…剣を…教えてください…」
と、実に稚拙な話し方をしてしまった。
「あ…朝、少しの時間でいいので…」
目上の人物に対してこのような言葉づかいしかできなかったことは、とても恥ずかしく、あきれられるのではないかと思ったが、彼女は特に気にした様子もなく、
「剣術の稽古をつけるのは構わないが、方術は別の者に頼んだ方がいいぞ」
と言った。
方術はとりあえずいいんです~!と、心の中で断りを入れつつ、あまり彼女の手を煩わせすぎるのも申し訳ないと思い、
「週3日くらいでお願いします」
と言おうとすると、彼女が先に口を開き、
「では早速明日の朝から始めよう」
と言った。
毎朝稽古に時間を割いてくれるつもりらしかった。
そうして彼女はまた会議室へ戻り、私は靴を履き始めた。
そこへ先程の黒髪の女の子が勢いよく入って来て、上級職の彼女の名前を呼んだ。
「聞いてくださ~い!」
と、随分機嫌が良さそうに彼女は会議室へ向かおうとした。
私は先程会議室で、遊び場のような態度で仲間に接し、注意されたことを思い出して、
「あ、今はやめた方がいいよ…」
と声をかけたが、まだ会議室の入り口は閉められておらず、名前を呼ばれた彼女が、
「どうした?」
と、こちらへ目を向けた。
黒髪の彼女は嬉しそうに持っていた紙を見せ、
「コレもらえたんです~!」
と言った。
それには彼女の自宅の電話番号が書かれていた。
それは彼女の親が、この組織の管理する住宅で生活することを許可したという証明で、それがなければ組織の本拠地内にある住宅には入れないことになっていた。
この組織でやっていこうと思う者は、遅かれ早かれその住宅へ住むのが当たり前であった。
それを見た上級職の彼女は、彼氏の方を向いて、
「お前はどうするつもりだ」
と尋ねた。
彼氏は、家族の賛成がなかなか得られずに、入りたくても入れないという境遇だった。
しかしいつまでも外で暮らしているわけにはいかないことも、誰もがわかっていた。
彼は若干眉を寄せ苦しそうに、
「親のことは必ずなんとかします」
と答えると、私の方を見て、
「ゆきも早めに許可だけはもらっておけ」
と言った。
私の方は、彼ほど反対を受けていないので、彼よりは早くその許可がもらえるという自信はあった。
彼の方の許可が下りたら、すぐに二人一緒に組織の中へ入れるようにという意味だった。
私は、
「うん」
と、うなづいた。
両親と妹と4人で、美術館のようなところへ来ていた。
この美術館は大変広く、また順路もわかりにくい。
しかしその、美術館内で迷ってしまう、という楽しさが売りでもあった。
入館してすぐに赤い布が敷かれた階段を上りながら、ふと気づくと父が薄い冊子を持っていた。
パンフレットである。
それには館内案内図も載っているはずだ。
母もそれを手にしていた。
妹を見ると、彼女は持っていなかった。
妹も気づいたようで、
「あっ」
と言い、私たちは顔を見合わせた。
「お父さん、どうしよう。私たち地図もらってない」
と、前を歩く父に告げると、
「なんだお前たち、入り口でもらって来なかったのか」
と、あきれたように言われた。
私は妹に、
「迷子にならないように、私たち一緒にいよ♪」
と言った。
この美術館は、広くてわかりにくくはあるが、基本的に四角の建物の壁にそって通路が作られている。
もし四角の建物が二つ、角のところでくっついたように並んだ構造だったら、通路が交差してねじれたような形になっているだろうから、もっとわかりにくくて迷いやすいだろうなぁ、と私は思った。
そして、四角が一つなら何とかなりそうだしまぁ良かった、と思った。
この美術館は大変広く、また順路もわかりにくい。
しかしその、美術館内で迷ってしまう、という楽しさが売りでもあった。
入館してすぐに赤い布が敷かれた階段を上りながら、ふと気づくと父が薄い冊子を持っていた。
パンフレットである。
それには館内案内図も載っているはずだ。
母もそれを手にしていた。
妹を見ると、彼女は持っていなかった。
妹も気づいたようで、
「あっ」
と言い、私たちは顔を見合わせた。
「お父さん、どうしよう。私たち地図もらってない」
と、前を歩く父に告げると、
「なんだお前たち、入り口でもらって来なかったのか」
と、あきれたように言われた。
私は妹に、
「迷子にならないように、私たち一緒にいよ♪」
と言った。
この美術館は、広くてわかりにくくはあるが、基本的に四角の建物の壁にそって通路が作られている。
もし四角の建物が二つ、角のところでくっついたように並んだ構造だったら、通路が交差してねじれたような形になっているだろうから、もっとわかりにくくて迷いやすいだろうなぁ、と私は思った。
そして、四角が一つなら何とかなりそうだしまぁ良かった、と思った。
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