夢をメモするからユメモ。秩序も筋道もないユメモ。
小さな3階建てビルを管理していた。
1階は何かに使用しており、3階を事務所にしていた。
2階は使っていなかったので、私は自分の住居にしようと考えていた。
事務所には私を含め二人しかいなかった。
小さな事務所である。
2階に住もうと思うことについて、相談していた。
私の他に事務所にいるもう一人の人は、はっきりとした性別も顔も記憶にない。
短髪で、白いイメージの人だった。
発する言葉が酷似していたので、彼氏かもしれない。
「2階が空いてるから家にしようかなぁ、それともアパートにして住もうかなぁ」
と、私は言っていた。
多分、どっちでもいいんじゃない?というようなことを言われたのだと思う。
「家にしたいけど…お金かかるからやっぱりアパートにしよ」
と、私は決めた。
彼の運転する車で、ドライブに行った。
ある場所で車を降りて、土器について話した。
その土地で発掘された、特殊な形の土器である。
彼は、私が楽しそうに話すのに、「へぇ~」などと相槌を打っていた。
「その土器を復元した時はねー、ここの土だけじゃなくて、周りの隣り合った市の土もちょっとずつ使って、合わせて作ったんだよー」
土器が発掘されたのはその土地だったが、近辺でも使われていた可能性が高いことから、その辺一帯の文化とするために、そういうことをしたのだと思う。
しばらく土器について話しながら歩き、そしてまた車に乗り込んで、帰路につくことにした。
山に囲まれた場所で、紅葉がとても綺麗だった。
いくつか並ぶ山が、遠くの方から手前にかけて、紅葉色から緑のグラデーションになっていた。
手前の方の山は、まだ紅葉していないらしい。
山々にみとれていると、突然車がガクンと揺れた。
運転席の彼が、
「うわぁ、この坂意外に急だ!」
と言った。
前方に目をやると、なるほど急な下り坂である。
「こえー」
と言いながら、彼は注意深く運転した。
私も少し怖かったので、
「気を付けて運転してね」
と言った。
坂道を下りながら、
「家建てたいなぁ~、でもお金ないからアパートで我慢しよ…」
と、独り言のように私が言うと、
「どっちもそんなに変わらないと思うけど…」
と、彼が言った。
私は、
「えっ、そうなの!?もう決めて来ちゃったよ~…」
と言った。
そういうことは早く言ってよ、と思ったが、決めたことは仕方がないので、諦めた。
それから私は、まだ土器の話をしていた。
「でも、それ展示してある場所は遠いんでしょ?」
と、彼が言うので、
「ううん、さっきのとこにあった建物に展示してるよ」
と答えた。
「中入るの結構高いんでしょ?」
とさらに彼が言うので、
「んーとねぇ、土器のとこだけだったら無料だったと思うけど」
と言うと、
「えぇー…」
と言われた。
早く言えよ、という意味が含まれていたと思う。
彼はさほど土器に興味がある風でもなかったが、私が熱心にその土器の話をするので、見せられるなら見せてやりたいと思っていたのだろう。
しかしその時には、もうほとんど坂を下りきってしまっていた。
時間もあまりなかったし、この急な坂をまた引き返す気は、二人ともなかった。
※ちなみにこの土器の復元について私がしている話はデタラメだが、土器自体は実在する。
1階は何かに使用しており、3階を事務所にしていた。
2階は使っていなかったので、私は自分の住居にしようと考えていた。
事務所には私を含め二人しかいなかった。
小さな事務所である。
2階に住もうと思うことについて、相談していた。
私の他に事務所にいるもう一人の人は、はっきりとした性別も顔も記憶にない。
短髪で、白いイメージの人だった。
発する言葉が酷似していたので、彼氏かもしれない。
「2階が空いてるから家にしようかなぁ、それともアパートにして住もうかなぁ」
と、私は言っていた。
多分、どっちでもいいんじゃない?というようなことを言われたのだと思う。
「家にしたいけど…お金かかるからやっぱりアパートにしよ」
と、私は決めた。
彼の運転する車で、ドライブに行った。
ある場所で車を降りて、土器について話した。
その土地で発掘された、特殊な形の土器である。
彼は、私が楽しそうに話すのに、「へぇ~」などと相槌を打っていた。
「その土器を復元した時はねー、ここの土だけじゃなくて、周りの隣り合った市の土もちょっとずつ使って、合わせて作ったんだよー」
土器が発掘されたのはその土地だったが、近辺でも使われていた可能性が高いことから、その辺一帯の文化とするために、そういうことをしたのだと思う。
しばらく土器について話しながら歩き、そしてまた車に乗り込んで、帰路につくことにした。
山に囲まれた場所で、紅葉がとても綺麗だった。
いくつか並ぶ山が、遠くの方から手前にかけて、紅葉色から緑のグラデーションになっていた。
手前の方の山は、まだ紅葉していないらしい。
山々にみとれていると、突然車がガクンと揺れた。
運転席の彼が、
「うわぁ、この坂意外に急だ!」
と言った。
前方に目をやると、なるほど急な下り坂である。
「こえー」
と言いながら、彼は注意深く運転した。
私も少し怖かったので、
「気を付けて運転してね」
と言った。
坂道を下りながら、
「家建てたいなぁ~、でもお金ないからアパートで我慢しよ…」
と、独り言のように私が言うと、
「どっちもそんなに変わらないと思うけど…」
と、彼が言った。
私は、
「えっ、そうなの!?もう決めて来ちゃったよ~…」
と言った。
そういうことは早く言ってよ、と思ったが、決めたことは仕方がないので、諦めた。
それから私は、まだ土器の話をしていた。
「でも、それ展示してある場所は遠いんでしょ?」
と、彼が言うので、
「ううん、さっきのとこにあった建物に展示してるよ」
と答えた。
「中入るの結構高いんでしょ?」
とさらに彼が言うので、
「んーとねぇ、土器のとこだけだったら無料だったと思うけど」
と言うと、
「えぇー…」
と言われた。
早く言えよ、という意味が含まれていたと思う。
彼はさほど土器に興味がある風でもなかったが、私が熱心にその土器の話をするので、見せられるなら見せてやりたいと思っていたのだろう。
しかしその時には、もうほとんど坂を下りきってしまっていた。
時間もあまりなかったし、この急な坂をまた引き返す気は、二人ともなかった。
※ちなみにこの土器の復元について私がしている話はデタラメだが、土器自体は実在する。
PR
ある大きな組織に属していた。
組織には彼氏もいた。
彼氏とよくつるんでいる二人がいた。
私たちは、組織とは無関係の個人的な意味で、仲間ということになっていた。
しかし二人は、彼氏のことを内心良く思っていなかった。
「大した実力もないくせに、上からチヤホヤされて調子に乗っている」
「自分たちと力はさして変わらないくせに、偉そうな態度がカンに障る」
というのが二人の言い分だった。
二人は、彼氏を陥れようと企んでいた。
「アイツに自分の本当の実力を思い知らせてやる」
私は、彼らの協力者を装った。
彼らは彼氏に無理矢理ハンデを課して、勝利を得ようとしていた。
しかし私は二人の汚い計画を、全て彼氏に伝えたので、企みは筒抜けだった。
やがて二人の計画が実行される日が来た。
私が事前に情報を流していたので、彼氏は罠にはまることはなく、ほぼハンデ無しの状態で二人に勝利した。
彼氏の実力を思い知ったのは、二人の方であった。
圧倒的であった。
「やっぱりお前には敵わないな」
二人は、彼氏と大体同じレベルのつもりだったが、そうではなく、彼氏が上から買われることにも納得したようだった。
私が情報を流していたことは、あまり責められなかった。
ハンデ無しで勝負し、力の差を知れたことは、彼らにとって、むしろ清々しいものだったのかもしれない。
ただ、建物から出るために4人でぞろぞろと、薄暗く人気のない階段を下りている時に、
「あーあ、ゆきには裏切られたな」
と、笑って言われた。
この建物は、二人が彼氏を陥れるために呼び出しただけの場所である。
こうした騙し打ちを仕掛けられたにも関わらず、彼氏は以前と同じように二人と接し、また二人も同様だった。
なので私もそうした。
二人の妬む心が消えた分、以前に比べて仲間としての繋がりが強くなったような気がした。
後日、4人で出かけることになった。
しかし私は時間に間に合わず、支度もそこそこに集合場所の駅へ向かった。
この駅は特殊で、電車に乗るのに少し技量が要った。
電車も普通の電車ではなく、遊園地のコースター、あるいはミニSLのように、天井がなく座席が二つずつ並んでいる乗り物だった。
乗り物とホームの間には深くて真っ暗な穴があり、足一つ分ほどの幅の細い石が浮かんでいた。
直方体のその石は、足を一歩踏むほどの面積しかなかった。
しかもブルブルと振動している。
石はある一定の周期で、振動と静止を繰り返していた。
ある石が静止した瞬間、彼氏がそれに足を乗せ、踏み台のようにして上手く乗り物に乗り込んだ。
踏まれた石は、穴の中へ落ちて行った。
一度使われた石は、他の者が使うことはできないのである。
座席は二人分並んでいるので、石も二つあったはずだが、彼氏が一つ落としたので私の使う分の石はポツンと浮かぶ形になり、余計に面積が狭いように感じた。
仲間の一人も、慣れた様子で乗り込んだ。
私が石の振動の周期を計りかねたり、躊躇しているうちに、乗り物は発車してしまった。
やはり同様に乗り物に乗らなかった仲間が、
「またすぐ次のが来るから大丈夫だよ」
と言った。
彼は私のように全く初めてというわけでもないが、あの石を踏んで跳ぶことが苦手ではあるようだった。
15分くらいで次が来るということなので、
「あっ、じゃあ私出るとき出来なかったから、この間にバッグの中整理しちゃおうかな」
と言って、バッグの整理をした。
夕方、私たちは組織の本拠地付近にいた。
私の自宅の側だった。
私のように力の不十分な者は、ここで訓練をすることになっていた。
彼氏と仲間二人は、組織の上級職と会議をしていた。
我が家の茶の間が、会議室として使われていた。
会議は正式なものではなく、ちょっとした話し合い程度のもののようであった。
外で訓練をしていた私は、少し休憩をするために、友人と一緒に土手へ寝そべった。
休憩をしながら友人が、
「ゆきは方術はわりと使えるが、剣術が苦手のようだな」
と言った。
ふと目をやると、川を渡る高速道路の橋の先にある山に、雪が積もっていた。
「あっ、見て、山が雪かぶってるよ!」
と、私は言った。
山にはふんわりとした綿がかぶさったようになっていて、本当に「雪をかぶっている」という表現がぴったりだった。
友人もうつ伏せのまま顔を上げ、私の言った方を見た。
しばらく眺めていると、対岸にあるその山に、小さな雪だるまがあるのがわかった。
よく見ると、雪だるまだけでなくかまくらや、家の形をしたものもあった。
それらにはそれぞれロウソクが入っており、付近の住人と思われる老人が、火をつけていた。
花火のようにパチパチと火花を散らして燃えているロウソクもあった。
ポツポツとともされたロウソクの炎は夕闇に映え、幻想的だった。
友人は、
「炎で雪が溶けてしまうだろうに、バカなことをする」
と言った。
彼女は地元の人間ではないので、ロウソクの炎程度では、雪だるまやかまくらが溶けないことを知らないらしかった。
「そういう風習なんだよ」
と、私は言い、
「今日がその日だったんだ~」
と、付け加えた。
友人は話を戻し、
「剣術の稽古をつけてもらってはどうだ?」
と、中で会議に参加している上級職の人物の名を挙げた。
その人物が特に剣術に秀でているという評判は知っていた。
「ゆきさん、稽古をつけてもらいたいなら、私から話を通しましょうか?」
と、背後から声がした。
腰まではある長い綺麗な黒髪の女の子がいた。
歳の頃は18といったところ、背が高く瞳の黒い美人である。
彼女とは特別親しくはなかったが、顔は知っていた。
彼女は、今話に上っている人物を特に慕っており、よくつきまとっていた。
私が返事もしないうちに、彼女は家の中へと姿を消した。
私は彼女を追い掛けて家に入り、「会議室」へ向かった。
会議はいかにも砕けた様子で行われていた。
私はその場にいた仲間とふざけ合い、はしゃいだ。
彼氏と上級職のその人物だけは、難しい顔をしていた。
というか、この二人は大抵仏丁面なので、別に難しい顔というわけでもないのかもしれない。
どういう話の流れかは分からないが、
「裏切りプリンセスはコイツっすよ~」
と、仲間が笑いながら私を差した。
彼氏をはめようとして、失敗した時のことを言っているのだと思った。
しかしそれは嫌味な感じではなく、本当にただふざけてちょっと構っているだけので私は気にしなかった。
私は、
「私は滅多に裏切りなんてしないも~ん」
と返した。
実際私には、彼らよりも彼氏の方が大切で、あの計画のときも最初から仲間のフリをしていただけなのだから、私にとっては裏切りではなく、ただの嘘つきくらいだと思った。
そうしてじゃれ合っていると、
「ゆき、ちょっと…」
と、上級職の人物に注意された。
気づけば会議には外部の人間も参加していたようで、見知らぬ二人が部屋の隅にちょこんと座っていた。
そういえば一応会議中だった、と思い出し、
「あっ、邪魔してしまってすみません」
と言い、慌てて部屋を出た。
外へ出ようとしていると、玄関で上級職の人物に呼び止められた。
「何か話があると聞いたが」
と、彼女に言われ、黒髪のあの女の子の言葉を思い出した。
剣術指南をお願いする話である。
しかし突然話しかけられ、心の準備ができていなかった私は、言葉を選ぶ余裕もなく、早く返事をしなければ、という思いで、
「あの…剣を…教えてください…」
と、実に稚拙な話し方をしてしまった。
「あ…朝、少しの時間でいいので…」
目上の人物に対してこのような言葉づかいしかできなかったことは、とても恥ずかしく、あきれられるのではないかと思ったが、彼女は特に気にした様子もなく、
「剣術の稽古をつけるのは構わないが、方術は別の者に頼んだ方がいいぞ」
と言った。
方術はとりあえずいいんです~!と、心の中で断りを入れつつ、あまり彼女の手を煩わせすぎるのも申し訳ないと思い、
「週3日くらいでお願いします」
と言おうとすると、彼女が先に口を開き、
「では早速明日の朝から始めよう」
と言った。
毎朝稽古に時間を割いてくれるつもりらしかった。
そうして彼女はまた会議室へ戻り、私は靴を履き始めた。
そこへ先程の黒髪の女の子が勢いよく入って来て、上級職の彼女の名前を呼んだ。
「聞いてくださ~い!」
と、随分機嫌が良さそうに彼女は会議室へ向かおうとした。
私は先程会議室で、遊び場のような態度で仲間に接し、注意されたことを思い出して、
「あ、今はやめた方がいいよ…」
と声をかけたが、まだ会議室の入り口は閉められておらず、名前を呼ばれた彼女が、
「どうした?」
と、こちらへ目を向けた。
黒髪の彼女は嬉しそうに持っていた紙を見せ、
「コレもらえたんです~!」
と言った。
それには彼女の自宅の電話番号が書かれていた。
それは彼女の親が、この組織の管理する住宅で生活することを許可したという証明で、それがなければ組織の本拠地内にある住宅には入れないことになっていた。
この組織でやっていこうと思う者は、遅かれ早かれその住宅へ住むのが当たり前であった。
それを見た上級職の彼女は、彼氏の方を向いて、
「お前はどうするつもりだ」
と尋ねた。
彼氏は、家族の賛成がなかなか得られずに、入りたくても入れないという境遇だった。
しかしいつまでも外で暮らしているわけにはいかないことも、誰もがわかっていた。
彼は若干眉を寄せ苦しそうに、
「親のことは必ずなんとかします」
と答えると、私の方を見て、
「ゆきも早めに許可だけはもらっておけ」
と言った。
私の方は、彼ほど反対を受けていないので、彼よりは早くその許可がもらえるという自信はあった。
彼の方の許可が下りたら、すぐに二人一緒に組織の中へ入れるようにという意味だった。
私は、
「うん」
と、うなづいた。
組織には彼氏もいた。
彼氏とよくつるんでいる二人がいた。
私たちは、組織とは無関係の個人的な意味で、仲間ということになっていた。
しかし二人は、彼氏のことを内心良く思っていなかった。
「大した実力もないくせに、上からチヤホヤされて調子に乗っている」
「自分たちと力はさして変わらないくせに、偉そうな態度がカンに障る」
というのが二人の言い分だった。
二人は、彼氏を陥れようと企んでいた。
「アイツに自分の本当の実力を思い知らせてやる」
私は、彼らの協力者を装った。
彼らは彼氏に無理矢理ハンデを課して、勝利を得ようとしていた。
しかし私は二人の汚い計画を、全て彼氏に伝えたので、企みは筒抜けだった。
やがて二人の計画が実行される日が来た。
私が事前に情報を流していたので、彼氏は罠にはまることはなく、ほぼハンデ無しの状態で二人に勝利した。
彼氏の実力を思い知ったのは、二人の方であった。
圧倒的であった。
「やっぱりお前には敵わないな」
二人は、彼氏と大体同じレベルのつもりだったが、そうではなく、彼氏が上から買われることにも納得したようだった。
私が情報を流していたことは、あまり責められなかった。
ハンデ無しで勝負し、力の差を知れたことは、彼らにとって、むしろ清々しいものだったのかもしれない。
ただ、建物から出るために4人でぞろぞろと、薄暗く人気のない階段を下りている時に、
「あーあ、ゆきには裏切られたな」
と、笑って言われた。
この建物は、二人が彼氏を陥れるために呼び出しただけの場所である。
こうした騙し打ちを仕掛けられたにも関わらず、彼氏は以前と同じように二人と接し、また二人も同様だった。
なので私もそうした。
二人の妬む心が消えた分、以前に比べて仲間としての繋がりが強くなったような気がした。
後日、4人で出かけることになった。
しかし私は時間に間に合わず、支度もそこそこに集合場所の駅へ向かった。
この駅は特殊で、電車に乗るのに少し技量が要った。
電車も普通の電車ではなく、遊園地のコースター、あるいはミニSLのように、天井がなく座席が二つずつ並んでいる乗り物だった。
乗り物とホームの間には深くて真っ暗な穴があり、足一つ分ほどの幅の細い石が浮かんでいた。
直方体のその石は、足を一歩踏むほどの面積しかなかった。
しかもブルブルと振動している。
石はある一定の周期で、振動と静止を繰り返していた。
ある石が静止した瞬間、彼氏がそれに足を乗せ、踏み台のようにして上手く乗り物に乗り込んだ。
踏まれた石は、穴の中へ落ちて行った。
一度使われた石は、他の者が使うことはできないのである。
座席は二人分並んでいるので、石も二つあったはずだが、彼氏が一つ落としたので私の使う分の石はポツンと浮かぶ形になり、余計に面積が狭いように感じた。
仲間の一人も、慣れた様子で乗り込んだ。
私が石の振動の周期を計りかねたり、躊躇しているうちに、乗り物は発車してしまった。
やはり同様に乗り物に乗らなかった仲間が、
「またすぐ次のが来るから大丈夫だよ」
と言った。
彼は私のように全く初めてというわけでもないが、あの石を踏んで跳ぶことが苦手ではあるようだった。
15分くらいで次が来るということなので、
「あっ、じゃあ私出るとき出来なかったから、この間にバッグの中整理しちゃおうかな」
と言って、バッグの整理をした。
夕方、私たちは組織の本拠地付近にいた。
私の自宅の側だった。
私のように力の不十分な者は、ここで訓練をすることになっていた。
彼氏と仲間二人は、組織の上級職と会議をしていた。
我が家の茶の間が、会議室として使われていた。
会議は正式なものではなく、ちょっとした話し合い程度のもののようであった。
外で訓練をしていた私は、少し休憩をするために、友人と一緒に土手へ寝そべった。
休憩をしながら友人が、
「ゆきは方術はわりと使えるが、剣術が苦手のようだな」
と言った。
ふと目をやると、川を渡る高速道路の橋の先にある山に、雪が積もっていた。
「あっ、見て、山が雪かぶってるよ!」
と、私は言った。
山にはふんわりとした綿がかぶさったようになっていて、本当に「雪をかぶっている」という表現がぴったりだった。
友人もうつ伏せのまま顔を上げ、私の言った方を見た。
しばらく眺めていると、対岸にあるその山に、小さな雪だるまがあるのがわかった。
よく見ると、雪だるまだけでなくかまくらや、家の形をしたものもあった。
それらにはそれぞれロウソクが入っており、付近の住人と思われる老人が、火をつけていた。
花火のようにパチパチと火花を散らして燃えているロウソクもあった。
ポツポツとともされたロウソクの炎は夕闇に映え、幻想的だった。
友人は、
「炎で雪が溶けてしまうだろうに、バカなことをする」
と言った。
彼女は地元の人間ではないので、ロウソクの炎程度では、雪だるまやかまくらが溶けないことを知らないらしかった。
「そういう風習なんだよ」
と、私は言い、
「今日がその日だったんだ~」
と、付け加えた。
友人は話を戻し、
「剣術の稽古をつけてもらってはどうだ?」
と、中で会議に参加している上級職の人物の名を挙げた。
その人物が特に剣術に秀でているという評判は知っていた。
「ゆきさん、稽古をつけてもらいたいなら、私から話を通しましょうか?」
と、背後から声がした。
腰まではある長い綺麗な黒髪の女の子がいた。
歳の頃は18といったところ、背が高く瞳の黒い美人である。
彼女とは特別親しくはなかったが、顔は知っていた。
彼女は、今話に上っている人物を特に慕っており、よくつきまとっていた。
私が返事もしないうちに、彼女は家の中へと姿を消した。
私は彼女を追い掛けて家に入り、「会議室」へ向かった。
会議はいかにも砕けた様子で行われていた。
私はその場にいた仲間とふざけ合い、はしゃいだ。
彼氏と上級職のその人物だけは、難しい顔をしていた。
というか、この二人は大抵仏丁面なので、別に難しい顔というわけでもないのかもしれない。
どういう話の流れかは分からないが、
「裏切りプリンセスはコイツっすよ~」
と、仲間が笑いながら私を差した。
彼氏をはめようとして、失敗した時のことを言っているのだと思った。
しかしそれは嫌味な感じではなく、本当にただふざけてちょっと構っているだけので私は気にしなかった。
私は、
「私は滅多に裏切りなんてしないも~ん」
と返した。
実際私には、彼らよりも彼氏の方が大切で、あの計画のときも最初から仲間のフリをしていただけなのだから、私にとっては裏切りではなく、ただの嘘つきくらいだと思った。
そうしてじゃれ合っていると、
「ゆき、ちょっと…」
と、上級職の人物に注意された。
気づけば会議には外部の人間も参加していたようで、見知らぬ二人が部屋の隅にちょこんと座っていた。
そういえば一応会議中だった、と思い出し、
「あっ、邪魔してしまってすみません」
と言い、慌てて部屋を出た。
外へ出ようとしていると、玄関で上級職の人物に呼び止められた。
「何か話があると聞いたが」
と、彼女に言われ、黒髪のあの女の子の言葉を思い出した。
剣術指南をお願いする話である。
しかし突然話しかけられ、心の準備ができていなかった私は、言葉を選ぶ余裕もなく、早く返事をしなければ、という思いで、
「あの…剣を…教えてください…」
と、実に稚拙な話し方をしてしまった。
「あ…朝、少しの時間でいいので…」
目上の人物に対してこのような言葉づかいしかできなかったことは、とても恥ずかしく、あきれられるのではないかと思ったが、彼女は特に気にした様子もなく、
「剣術の稽古をつけるのは構わないが、方術は別の者に頼んだ方がいいぞ」
と言った。
方術はとりあえずいいんです~!と、心の中で断りを入れつつ、あまり彼女の手を煩わせすぎるのも申し訳ないと思い、
「週3日くらいでお願いします」
と言おうとすると、彼女が先に口を開き、
「では早速明日の朝から始めよう」
と言った。
毎朝稽古に時間を割いてくれるつもりらしかった。
そうして彼女はまた会議室へ戻り、私は靴を履き始めた。
そこへ先程の黒髪の女の子が勢いよく入って来て、上級職の彼女の名前を呼んだ。
「聞いてくださ~い!」
と、随分機嫌が良さそうに彼女は会議室へ向かおうとした。
私は先程会議室で、遊び場のような態度で仲間に接し、注意されたことを思い出して、
「あ、今はやめた方がいいよ…」
と声をかけたが、まだ会議室の入り口は閉められておらず、名前を呼ばれた彼女が、
「どうした?」
と、こちらへ目を向けた。
黒髪の彼女は嬉しそうに持っていた紙を見せ、
「コレもらえたんです~!」
と言った。
それには彼女の自宅の電話番号が書かれていた。
それは彼女の親が、この組織の管理する住宅で生活することを許可したという証明で、それがなければ組織の本拠地内にある住宅には入れないことになっていた。
この組織でやっていこうと思う者は、遅かれ早かれその住宅へ住むのが当たり前であった。
それを見た上級職の彼女は、彼氏の方を向いて、
「お前はどうするつもりだ」
と尋ねた。
彼氏は、家族の賛成がなかなか得られずに、入りたくても入れないという境遇だった。
しかしいつまでも外で暮らしているわけにはいかないことも、誰もがわかっていた。
彼は若干眉を寄せ苦しそうに、
「親のことは必ずなんとかします」
と答えると、私の方を見て、
「ゆきも早めに許可だけはもらっておけ」
と言った。
私の方は、彼ほど反対を受けていないので、彼よりは早くその許可がもらえるという自信はあった。
彼の方の許可が下りたら、すぐに二人一緒に組織の中へ入れるようにという意味だった。
私は、
「うん」
と、うなづいた。
両親と妹と4人で、美術館のようなところへ来ていた。
この美術館は大変広く、また順路もわかりにくい。
しかしその、美術館内で迷ってしまう、という楽しさが売りでもあった。
入館してすぐに赤い布が敷かれた階段を上りながら、ふと気づくと父が薄い冊子を持っていた。
パンフレットである。
それには館内案内図も載っているはずだ。
母もそれを手にしていた。
妹を見ると、彼女は持っていなかった。
妹も気づいたようで、
「あっ」
と言い、私たちは顔を見合わせた。
「お父さん、どうしよう。私たち地図もらってない」
と、前を歩く父に告げると、
「なんだお前たち、入り口でもらって来なかったのか」
と、あきれたように言われた。
私は妹に、
「迷子にならないように、私たち一緒にいよ♪」
と言った。
この美術館は、広くてわかりにくくはあるが、基本的に四角の建物の壁にそって通路が作られている。
もし四角の建物が二つ、角のところでくっついたように並んだ構造だったら、通路が交差してねじれたような形になっているだろうから、もっとわかりにくくて迷いやすいだろうなぁ、と私は思った。
そして、四角が一つなら何とかなりそうだしまぁ良かった、と思った。
この美術館は大変広く、また順路もわかりにくい。
しかしその、美術館内で迷ってしまう、という楽しさが売りでもあった。
入館してすぐに赤い布が敷かれた階段を上りながら、ふと気づくと父が薄い冊子を持っていた。
パンフレットである。
それには館内案内図も載っているはずだ。
母もそれを手にしていた。
妹を見ると、彼女は持っていなかった。
妹も気づいたようで、
「あっ」
と言い、私たちは顔を見合わせた。
「お父さん、どうしよう。私たち地図もらってない」
と、前を歩く父に告げると、
「なんだお前たち、入り口でもらって来なかったのか」
と、あきれたように言われた。
私は妹に、
「迷子にならないように、私たち一緒にいよ♪」
と言った。
この美術館は、広くてわかりにくくはあるが、基本的に四角の建物の壁にそって通路が作られている。
もし四角の建物が二つ、角のところでくっついたように並んだ構造だったら、通路が交差してねじれたような形になっているだろうから、もっとわかりにくくて迷いやすいだろうなぁ、と私は思った。
そして、四角が一つなら何とかなりそうだしまぁ良かった、と思った。
教室にいた。
外は雨で、暗いようだった。
朝のホームルーム前のようで、教室はにぎやかだった。
私は隣の席の男子や、周りの席のコたちと、仲良くおしゃべりをしていた。
隣の男子は今ハマっているキャラクターがあるということで、そのキャラクターの話で盛り上がっていた。
私もそのキャラクターは好きだった。
「一週間に一度新しいバージョンが出る」
と話しながら、キャラクターのグッズを並べていた。
私はハミガキをしていて、そろそろ口をゆすごうかな、と思っていた。
「ハミガキなんてこんなところでしないで欲しい」
と、クラスの女子の一人が話しかけるでもないが、しかし確かに私に聞こえるように言った。
短いスカートのコだった。
私は、その言葉を聞いて、すぐに教室の前の方にある流しへ向かった。
「ココでハミガキしちゃいけなかったんだ…!」
私は少し焦った。
クラスの誰かを不愉快にしたその行動は、些細なきっかけであるが、イジメに繋がらないとも限らないからである。
特に私は、制服のスカートを短くするタイプの女子が怖かった。
イジメられたくない!
仲間外れにされたくない!
その時私の心の中は、8割方イジメへの不安が占めていた。
そこへ担任の先生が入って来て、みんなは席についた。
私はまだ口をゆすいでいなかったので、教室の前の方にある流しに向かった。
教室には流しが3つあった。
真ん中に、普段みんながメインで使っている流し。家庭の台所にあるようなステンレスである。
右は手洗いなどに使う流し。学校の水飲み場のような石のような材質のタイプで、蛇口は2つあった。
左は教室の前というより横の壁についていて、理科室の実験器具を洗うような、蛇口が3つついている。こちらも材質は石のようなものである。
私のように、まだ朝の準備が終わらないらしく、流しの前に2人の女生徒がいた。
右と左に一人ずつである。
私は、メインである真ん中の流しが使われていないことを不思議に思いながら、真ん中へ向かった。
先生は、ホームルームの時間になってもまだ支度のできていない生徒がいることで、少し不機嫌だったかもしれないが、いつものこと、と教室の左隅のパイプ椅子に腰かけて黙って待っていた。
私が真ん中の流しに向かうと、そこはちょうど掃除の途中で、三角コーナーと排水溝に設置して使うあの筒型のゴミ取りが置いてあった。
ゴミが少し散らかっていた。
ココをこのまま使っては、後々文句を言わせる種になるかもしれない、と思いそこから離れた。
私がメインの流しを使えないことを、教室の生徒たちが心の中で嘲笑っているような気がした。
私は内心ビクビクしながら、他の二つの流しを見た。
私の席は、教室を真ん中から縦に分けたら右側であるから、左の流しを使うことは不自然に思えた。
それに左の流しは滅多に使われることがなく、そこを使うのは、真ん中や右を使うことを許されない者くらいであった。
その左壁側の流しには、今クラスで無視されている女の子がいた。
彼女の支度が遅れたのは、朝からイジメられ、邪魔され、時間をとられてしまったからだと思われた。
蛇口が3つあるので、さほど窮屈ではないだろうが、わざわざそこへ行き彼女と二人並ぶことによって、イジメの標的が自分になる可能性がいよいよ強くなるような気がした。
右の流しは蛇口が2つしかないので、二人で並べば窮屈になることは必至だった。
右の流しには、クラス全員から無視とまではいかないものの、中心グループからイジメられている女の子がいた。
そのコと並ぶことも、やはりイジメグループの餌食になりそうで怖かったが、左の女の子と並ぶよりはマシに思えた。
それに席が近いのだから、こちらを使う方が自然である。
私は、右の流しへ向かった。
先にいた女の子は、入れ違いで席に戻ったのか、私は流しの前で一人になった。
ココも、メインの真ん中から追い出された者が使う場所であった。
しかしちょっとした用事くらいなら、こちらで済ませる者もおり、やはり左よりはいくらかマシと言えた。
それでもイジメグループを中心とした、クラスメイトが嘲笑うような空気は、背後から感じとることができた。
さらにその中心にいるのは、先程嫌味を言ってきた、あのスカートの短い生徒である。
もうほとんどの生徒が席についているというのに、自分だけまだポツンと流しの前にいるということで、余計に居心地が悪かった。
ひたすら嫌な視線に耐えながら流しの前にいると、それまで黙っていた先生が、
「お前ら、そういうことでいいと思ってるのか!」
と、突然声をあげた。
私に送られている蔑むような嘲笑うような視線と、それに逆らったり制止しようとせず黙りこくって我関せずの態度をとっている生徒の存在に、先生は気づいていたのである。
しばらくして、しんとした教室から、さっき仲良く話していたあの隣の席の男子の声がした。
「その新しいのとって来て!」
顔を上げると、流しの正面の壁に、さっきそれで盛り上がったばかりの、例のキャラクターグッズがぶら下がっていた。
キャラクターがチョコレートパフェに埋まって、クリームから顔を出しているというストラップのようなものだった。
これが「一週間に一度出る新作」の、最新バージョンらしい。
かわいくて、私も欲しいと思ったが、それは一つしかなかった。
これを逃せば手に入らないだろう。
彼の顔はこわばっていた。
彼もまた、イジメの標的になることを恐れているのである。
私は一瞬迷って、
「ほら、受けとれ!」
と言い、彼へ向かってグッズを投げた。
後で自分で取りに来れば済むものを、彼は勇気を出して、私を嫌な雰囲気から助け出すために声をあげてくれたのだ。
それに私より彼の方が、このキャラクターのことを好きである。
彼はうまく受けとることができずに、グッズは彼と彼の椅子の隙間に挟まった。
「ちゃんと取れなかったからダメ~」
と、私は彼に向かって少し意地悪を言った。
何だか恥ずかしくて素直に感謝を表すことができなくて、私はわざと受けとれないような場所へ向かってグッズを投げたのである。
「えぇ~!」
と、彼が困った顔をすると、周りの席の仲間が口々に、
「そうだそうだ、ダメだぞ」
などと笑いながら彼を困らせていた。
彼の周りに笑い声やふざけ合う声が集まり、それはまだ教室の前の方にいる私とも繋がっていた。
居心地が悪く嫌な感じの、あの雰囲気は、それによってかき消された。
私は彼に助けられ、あわよくばと私を狙ったイジメグループは、獲物を逃した。
外は雨で、暗いようだった。
朝のホームルーム前のようで、教室はにぎやかだった。
私は隣の席の男子や、周りの席のコたちと、仲良くおしゃべりをしていた。
隣の男子は今ハマっているキャラクターがあるということで、そのキャラクターの話で盛り上がっていた。
私もそのキャラクターは好きだった。
「一週間に一度新しいバージョンが出る」
と話しながら、キャラクターのグッズを並べていた。
私はハミガキをしていて、そろそろ口をゆすごうかな、と思っていた。
「ハミガキなんてこんなところでしないで欲しい」
と、クラスの女子の一人が話しかけるでもないが、しかし確かに私に聞こえるように言った。
短いスカートのコだった。
私は、その言葉を聞いて、すぐに教室の前の方にある流しへ向かった。
「ココでハミガキしちゃいけなかったんだ…!」
私は少し焦った。
クラスの誰かを不愉快にしたその行動は、些細なきっかけであるが、イジメに繋がらないとも限らないからである。
特に私は、制服のスカートを短くするタイプの女子が怖かった。
イジメられたくない!
仲間外れにされたくない!
その時私の心の中は、8割方イジメへの不安が占めていた。
そこへ担任の先生が入って来て、みんなは席についた。
私はまだ口をゆすいでいなかったので、教室の前の方にある流しに向かった。
教室には流しが3つあった。
真ん中に、普段みんながメインで使っている流し。家庭の台所にあるようなステンレスである。
右は手洗いなどに使う流し。学校の水飲み場のような石のような材質のタイプで、蛇口は2つあった。
左は教室の前というより横の壁についていて、理科室の実験器具を洗うような、蛇口が3つついている。こちらも材質は石のようなものである。
私のように、まだ朝の準備が終わらないらしく、流しの前に2人の女生徒がいた。
右と左に一人ずつである。
私は、メインである真ん中の流しが使われていないことを不思議に思いながら、真ん中へ向かった。
先生は、ホームルームの時間になってもまだ支度のできていない生徒がいることで、少し不機嫌だったかもしれないが、いつものこと、と教室の左隅のパイプ椅子に腰かけて黙って待っていた。
私が真ん中の流しに向かうと、そこはちょうど掃除の途中で、三角コーナーと排水溝に設置して使うあの筒型のゴミ取りが置いてあった。
ゴミが少し散らかっていた。
ココをこのまま使っては、後々文句を言わせる種になるかもしれない、と思いそこから離れた。
私がメインの流しを使えないことを、教室の生徒たちが心の中で嘲笑っているような気がした。
私は内心ビクビクしながら、他の二つの流しを見た。
私の席は、教室を真ん中から縦に分けたら右側であるから、左の流しを使うことは不自然に思えた。
それに左の流しは滅多に使われることがなく、そこを使うのは、真ん中や右を使うことを許されない者くらいであった。
その左壁側の流しには、今クラスで無視されている女の子がいた。
彼女の支度が遅れたのは、朝からイジメられ、邪魔され、時間をとられてしまったからだと思われた。
蛇口が3つあるので、さほど窮屈ではないだろうが、わざわざそこへ行き彼女と二人並ぶことによって、イジメの標的が自分になる可能性がいよいよ強くなるような気がした。
右の流しは蛇口が2つしかないので、二人で並べば窮屈になることは必至だった。
右の流しには、クラス全員から無視とまではいかないものの、中心グループからイジメられている女の子がいた。
そのコと並ぶことも、やはりイジメグループの餌食になりそうで怖かったが、左の女の子と並ぶよりはマシに思えた。
それに席が近いのだから、こちらを使う方が自然である。
私は、右の流しへ向かった。
先にいた女の子は、入れ違いで席に戻ったのか、私は流しの前で一人になった。
ココも、メインの真ん中から追い出された者が使う場所であった。
しかしちょっとした用事くらいなら、こちらで済ませる者もおり、やはり左よりはいくらかマシと言えた。
それでもイジメグループを中心とした、クラスメイトが嘲笑うような空気は、背後から感じとることができた。
さらにその中心にいるのは、先程嫌味を言ってきた、あのスカートの短い生徒である。
もうほとんどの生徒が席についているというのに、自分だけまだポツンと流しの前にいるということで、余計に居心地が悪かった。
ひたすら嫌な視線に耐えながら流しの前にいると、それまで黙っていた先生が、
「お前ら、そういうことでいいと思ってるのか!」
と、突然声をあげた。
私に送られている蔑むような嘲笑うような視線と、それに逆らったり制止しようとせず黙りこくって我関せずの態度をとっている生徒の存在に、先生は気づいていたのである。
しばらくして、しんとした教室から、さっき仲良く話していたあの隣の席の男子の声がした。
「その新しいのとって来て!」
顔を上げると、流しの正面の壁に、さっきそれで盛り上がったばかりの、例のキャラクターグッズがぶら下がっていた。
キャラクターがチョコレートパフェに埋まって、クリームから顔を出しているというストラップのようなものだった。
これが「一週間に一度出る新作」の、最新バージョンらしい。
かわいくて、私も欲しいと思ったが、それは一つしかなかった。
これを逃せば手に入らないだろう。
彼の顔はこわばっていた。
彼もまた、イジメの標的になることを恐れているのである。
私は一瞬迷って、
「ほら、受けとれ!」
と言い、彼へ向かってグッズを投げた。
後で自分で取りに来れば済むものを、彼は勇気を出して、私を嫌な雰囲気から助け出すために声をあげてくれたのだ。
それに私より彼の方が、このキャラクターのことを好きである。
彼はうまく受けとることができずに、グッズは彼と彼の椅子の隙間に挟まった。
「ちゃんと取れなかったからダメ~」
と、私は彼に向かって少し意地悪を言った。
何だか恥ずかしくて素直に感謝を表すことができなくて、私はわざと受けとれないような場所へ向かってグッズを投げたのである。
「えぇ~!」
と、彼が困った顔をすると、周りの席の仲間が口々に、
「そうだそうだ、ダメだぞ」
などと笑いながら彼を困らせていた。
彼の周りに笑い声やふざけ合う声が集まり、それはまだ教室の前の方にいる私とも繋がっていた。
居心地が悪く嫌な感じの、あの雰囲気は、それによってかき消された。
私は彼に助けられ、あわよくばと私を狙ったイジメグループは、獲物を逃した。
私はサッカーチームに所属していた。
チームに、身体が思うように動かない、頭痛がするという症状を訴えたメンバーがいた。
症状は危険と判断され、練習が中断された。
症状を訴えたメンバーは、隔離され、安静にしているらしい。
他のメンバーを一堂に集め、キャプテンが、
「何故彼だけがこのようになったのだろう。とにかく原因や対処法が全くわからない」
というようなことを話していた。
原因不明の奇病として扱われているようである。
実は私も黙ってはいたが、同じ症状であった。
自分も同じ症状だから分かるのだが、これはそんなに大騒ぎするようなものではない、と感じていた。
筋肉痛のように、放っておけばすぐ直るという類のものだ。
原因は大方疲労といったところであろう。
口が思うように動かず、喋ることができなかったので、それを伝えられなくて困った。
「彼だけじゃない!自分もだ!!」
と、心の中で訴えるしかなく、キャプテンはもちろんそれに気づいてくれるはずもなく、歯がゆい思いをしていた。
その時、先輩メンバーの一人が口を開き、症状がでているのは彼だけではないというようなことを言った。私は、
「先輩!そう!そうなんだよ、大騒ぎするようなものじゃないんだよ!!」
と、また心の中で言った。
そして先輩は、自分もそうである、と告げた。
「奇病」の犠牲者が二人も出たということで、チームはミーティングハウスに向かうことになった。
ミーティングハウスは、私の自宅だった。
自宅へは、先輩と、姉と私の三人で向かった。
姉がたずなを握る、小さな荷馬車で向かった。
私は御者席の姉の隣に座り、先輩は後ろの荷車の方へ乗った。
家に向かいながら、
「こうして馬車に乗るなんて久しぶりだわ。小さい頃は、よくゆきも乗っていたんですよ」
と、姉が後部の先輩に、話すともなく話していた。
先輩は、いかにも「自分はかわいそうな病人です」といった態度をとっていたが、姉の話には元気そうに相槌を打っていた。
先輩は女性好きで自分がかわいくて、我が道を行くという性格であった。
「コレが大したことのないものだって先輩もわかっているはずなのに、大袈裟に病人ぶるなぁ」
と、私は苦笑する思いであった。
先輩は、「病気でかわいそうな自分」を演出しており、それによって周囲からチヤホヤされたいと考えているようであった。
しかし私は、基本的には明るく面倒見のよいこの先輩が嫌いではなく、仲良くしていた。
先輩の病人ぶって気をひこうという子供じみたその行動は、苦笑する程度にとどまるもので、決して嫌な気分になるようなものではなく、むしろかわいいような気さえしていた。
彼の人柄のなせる業であろう。
自宅に着くと、もうみんな集まっていた。
茶の間へ顔を出すと、みんな我が家のようにくつろいでいた。
誰ともなく、
「お前もさっさと検査してもらって来いよ」
と声がしたので、返事をして隣の部屋の顧問医師のところへ向かった。
「隙間は気をつけろよ!」
という声が茶の間からして、首を傾げつつ廊下に出た。
先輩は、先にもう医師のところへ行っていた。
廊下では、何人かのメンバーが足でボールを操っていた。
医師の行うテストの一つなのであろう。
しかし人が一人か二人通れる程度の狭い廊下では、広い屋外のように身体を動かすことができず、みんな苦戦していた。
顧問医師の部屋へ入ると、先輩もすでに隔離されていた。
医師は難しい顔をして、
「全くわからん…」
というようなことを誰にともなく話していた。
だからそんなに深刻なもんじゃないって…と、内心思いつつ、先輩の様子を見ることにした。
隔離と言っても、無菌室や特別な部屋に入れられているわけではなく、医師のいる部屋の押し入れで休んでいる様子であった。
先輩は眠っているだろうか、と思いながら、押し入れの引き戸がわずかに開いてできた隙間へ、様子を探るように手をかけた。
そっと引き戸を開けようとすると、勢い良く戸が閉まり、私は中指を挟んでしまった。
強い痛みを感じながらびっくりしていると、さっと押し入れの戸が開けられ、中で先輩が楽しそうに笑っていた。
わざと戸の隙間を作っておき、人が手をかけたら思いきり挟むという悪戯である。
茶の間で「隙間に気をつけろ」と言われた意味がわかった。
「いったーい…何するんですか、もう!」
と、私が顔をしかめながら怒ってみせると、先輩はさらに満足そうに笑った。
この時には私は、喋ることができるようになっていた。
先輩のいた押し入れは上の段に布団が敷いてあり、簡易ベッドのような使われ方をしていた。
「私も入ってみた~い♪」
と、布団の上に両手を伸ばすと、
「ここは俺の場所だからダメー」
と、先輩は意地悪に笑った。
私は先輩との、こういったじゃれあいが好きで、先輩が構ってくれるのが嬉しかった。
そうしてふざけあっていると、先輩がふいに「ベッド」から下りて、押し入れの外へ出た。
押し入れの外はもちろん顧問医師の使っている部屋で、そこには一番初めに「症状」を訴えたメンバーがいた。
男性のはずだったそのメンバーは、この時には可愛い女性になっていた。
先輩は、そのメンバーの肩を抱くと、
「俺たち二人だけが原因不明のこんなんになって…俺こういうの運命感じちゃうんだけど」
と言った。
私は、どうせ大したことないくせに、と思った。
先輩だって自分の身体なのだから、わかっているはずである。
わかっているからこそ、悲観もしないし悪戯をしかける余裕もあるし笑うこともできるのである。
それに二人だけじゃない、私だってそうだ、と思った。
先輩は「奇病」を利用して彼女に接近していた。
肩を抱かれた彼女は、どうしていいのかわからないという風に、うつむいていた。
このメンバーは、自分が本当に未知の難病にかかってしまったと思い込んでいるようで、沈んだ様子である。
私は嫉妬した。
先輩の言葉は本気ではなく、いつものように少しふざけているだけだとわかっていた。
先輩は、女性であれば誰彼構わず、こういう冗談を言う人なのである。
それでも、私は仲の良い先輩をとられたようで、嫉妬してしまっていた。
うつむいているそのメンバーを憎む気持ちもなかったし、先輩を非難するような気持ちもなかった。
ただ、先輩は面倒見が良く人懐っこく、それは誰に対してでもそうであって、自分だけが特別なのではないと思い知った。
私は先輩の性格を知っていたはずなのに、無意識のうちに自分は先輩と特別仲の良い存在なのだと、思い込んでしまっていたのである。
チームに、身体が思うように動かない、頭痛がするという症状を訴えたメンバーがいた。
症状は危険と判断され、練習が中断された。
症状を訴えたメンバーは、隔離され、安静にしているらしい。
他のメンバーを一堂に集め、キャプテンが、
「何故彼だけがこのようになったのだろう。とにかく原因や対処法が全くわからない」
というようなことを話していた。
原因不明の奇病として扱われているようである。
実は私も黙ってはいたが、同じ症状であった。
自分も同じ症状だから分かるのだが、これはそんなに大騒ぎするようなものではない、と感じていた。
筋肉痛のように、放っておけばすぐ直るという類のものだ。
原因は大方疲労といったところであろう。
口が思うように動かず、喋ることができなかったので、それを伝えられなくて困った。
「彼だけじゃない!自分もだ!!」
と、心の中で訴えるしかなく、キャプテンはもちろんそれに気づいてくれるはずもなく、歯がゆい思いをしていた。
その時、先輩メンバーの一人が口を開き、症状がでているのは彼だけではないというようなことを言った。私は、
「先輩!そう!そうなんだよ、大騒ぎするようなものじゃないんだよ!!」
と、また心の中で言った。
そして先輩は、自分もそうである、と告げた。
「奇病」の犠牲者が二人も出たということで、チームはミーティングハウスに向かうことになった。
ミーティングハウスは、私の自宅だった。
自宅へは、先輩と、姉と私の三人で向かった。
姉がたずなを握る、小さな荷馬車で向かった。
私は御者席の姉の隣に座り、先輩は後ろの荷車の方へ乗った。
家に向かいながら、
「こうして馬車に乗るなんて久しぶりだわ。小さい頃は、よくゆきも乗っていたんですよ」
と、姉が後部の先輩に、話すともなく話していた。
先輩は、いかにも「自分はかわいそうな病人です」といった態度をとっていたが、姉の話には元気そうに相槌を打っていた。
先輩は女性好きで自分がかわいくて、我が道を行くという性格であった。
「コレが大したことのないものだって先輩もわかっているはずなのに、大袈裟に病人ぶるなぁ」
と、私は苦笑する思いであった。
先輩は、「病気でかわいそうな自分」を演出しており、それによって周囲からチヤホヤされたいと考えているようであった。
しかし私は、基本的には明るく面倒見のよいこの先輩が嫌いではなく、仲良くしていた。
先輩の病人ぶって気をひこうという子供じみたその行動は、苦笑する程度にとどまるもので、決して嫌な気分になるようなものではなく、むしろかわいいような気さえしていた。
彼の人柄のなせる業であろう。
自宅に着くと、もうみんな集まっていた。
茶の間へ顔を出すと、みんな我が家のようにくつろいでいた。
誰ともなく、
「お前もさっさと検査してもらって来いよ」
と声がしたので、返事をして隣の部屋の顧問医師のところへ向かった。
「隙間は気をつけろよ!」
という声が茶の間からして、首を傾げつつ廊下に出た。
先輩は、先にもう医師のところへ行っていた。
廊下では、何人かのメンバーが足でボールを操っていた。
医師の行うテストの一つなのであろう。
しかし人が一人か二人通れる程度の狭い廊下では、広い屋外のように身体を動かすことができず、みんな苦戦していた。
顧問医師の部屋へ入ると、先輩もすでに隔離されていた。
医師は難しい顔をして、
「全くわからん…」
というようなことを誰にともなく話していた。
だからそんなに深刻なもんじゃないって…と、内心思いつつ、先輩の様子を見ることにした。
隔離と言っても、無菌室や特別な部屋に入れられているわけではなく、医師のいる部屋の押し入れで休んでいる様子であった。
先輩は眠っているだろうか、と思いながら、押し入れの引き戸がわずかに開いてできた隙間へ、様子を探るように手をかけた。
そっと引き戸を開けようとすると、勢い良く戸が閉まり、私は中指を挟んでしまった。
強い痛みを感じながらびっくりしていると、さっと押し入れの戸が開けられ、中で先輩が楽しそうに笑っていた。
わざと戸の隙間を作っておき、人が手をかけたら思いきり挟むという悪戯である。
茶の間で「隙間に気をつけろ」と言われた意味がわかった。
「いったーい…何するんですか、もう!」
と、私が顔をしかめながら怒ってみせると、先輩はさらに満足そうに笑った。
この時には私は、喋ることができるようになっていた。
先輩のいた押し入れは上の段に布団が敷いてあり、簡易ベッドのような使われ方をしていた。
「私も入ってみた~い♪」
と、布団の上に両手を伸ばすと、
「ここは俺の場所だからダメー」
と、先輩は意地悪に笑った。
私は先輩との、こういったじゃれあいが好きで、先輩が構ってくれるのが嬉しかった。
そうしてふざけあっていると、先輩がふいに「ベッド」から下りて、押し入れの外へ出た。
押し入れの外はもちろん顧問医師の使っている部屋で、そこには一番初めに「症状」を訴えたメンバーがいた。
男性のはずだったそのメンバーは、この時には可愛い女性になっていた。
先輩は、そのメンバーの肩を抱くと、
「俺たち二人だけが原因不明のこんなんになって…俺こういうの運命感じちゃうんだけど」
と言った。
私は、どうせ大したことないくせに、と思った。
先輩だって自分の身体なのだから、わかっているはずである。
わかっているからこそ、悲観もしないし悪戯をしかける余裕もあるし笑うこともできるのである。
それに二人だけじゃない、私だってそうだ、と思った。
先輩は「奇病」を利用して彼女に接近していた。
肩を抱かれた彼女は、どうしていいのかわからないという風に、うつむいていた。
このメンバーは、自分が本当に未知の難病にかかってしまったと思い込んでいるようで、沈んだ様子である。
私は嫉妬した。
先輩の言葉は本気ではなく、いつものように少しふざけているだけだとわかっていた。
先輩は、女性であれば誰彼構わず、こういう冗談を言う人なのである。
それでも、私は仲の良い先輩をとられたようで、嫉妬してしまっていた。
うつむいているそのメンバーを憎む気持ちもなかったし、先輩を非難するような気持ちもなかった。
ただ、先輩は面倒見が良く人懐っこく、それは誰に対してでもそうであって、自分だけが特別なのではないと思い知った。
私は先輩の性格を知っていたはずなのに、無意識のうちに自分は先輩と特別仲の良い存在なのだと、思い込んでしまっていたのである。
カテゴリー
リンク
ブログ内検索