夢をメモするからユメモ。秩序も筋道もないユメモ。
卒業式が間近になっていた。
在校生は、卒業生のための準備をするように言われていた。
式では、在校生の態度や服装によって、クラスごとに点数をつけて競い合うことになった。
各クラスがそれぞれに工夫をした。
隣のクラスでは、「卒業生、入場」という声と共に、全員が一斉に服装を整える作戦だった。
「あいつらの作戦、上手くできてるなぁ」
と、こちらのクラスの誰かが言った。
卒業生入場と同時に服装を直すということは、明らかに卒業生のためにそうしているというアピールであって、なるほど効果的かもしれない、と思った。
私たちのクラスは、何の捻りもなく、ただイイコにすることに撤していた。
それとは別に、私たちは全員が緑川の大吟醸を1リットルずつ、持ってくるように言われていた(念のため書き添えるが、緑川というのは日本酒の名前である)。
これはクラスの点数には関係なく、在校生全員に言われたことである。
それで卒業記念品を作るらしい。
お菓子とか、そんなモノだと思う。
卒業式の前日になっても、私はまだ緑川を用意していなかった。
朝、早めに家を出て登校途中で購入して行こうと思い、バスの時間を調べるために、バス停へ向かって夜道を歩いた。
上に架った高速道路のオレンジ色の光が道を照らしていたので、それほど真っ暗というわけでもなかった。
バス停への道の途中、クラスメイトがしゃがみこんでいるのを見つけた。
この子は身体もびっくりするほど細いし、たまに貧血を起こしたりする。
「どうしたの、大丈夫!?」
と、クラスメイトの隣にしゃがみこんで様子を見ようとすると、
「…ガスが…」
と、彼女は答えた。
「飛行船を見つけて乗っちゃったの。私飛行船とか興味あって…でも飛行船ってガスで動くでしょう?」
見れば、クシャクシャに潰れた銀色の飛行船と、その部品の風船のようなものが落ちていた。
「飛行船のガスって何だっけ?」
私は、ヘリウム?と思いながら尋ねた。
「昔はヘリウムだったんだけどね、今は…」
彼女は二つのガスの名前を挙げた。
私も知っている名前だった。
とにかくその飛行船は、二種のガスを混合して使用し、飛ぶものらしかった。
そして彼女はそれを吸ってしまったのである。
そういう会話をしていくらもしないうちに、小さなワゴン車が走って来た。
彼女は、
「あっ、習い事の迎えの車来たからもう大丈夫」
と、車に乗って行ってしまった。
テニスだか水泳だかバドミントンだかバレーだか、何かのスポーツを趣味でしているのだそうだ。
それから私はバス停へ着いて、時刻表を眺めた。
するとそこへクラスメイトがやって来て、
「もしかしてゆきちゃんもまだ買ってないの?」
と言ったので、私は肯定した。
「このバスで行こうかな」
と言って、よく見ると、そのバスでは緑川酒造を通り過ぎてしまう。
バス停に紐でぶら下げられた防水加工の時刻表を、ペラペラとめくって、緑川酒造で止まるバスを探した。
バスが見つかったので、
「あっ、これなら止まる」
と言って見ると、今度はそれは学校の最寄りのバス停に止まらない。
「役場前で降りて歩くしかないね」
と、クラスメイトが言った。
「役場前に何時?」
と尋ねると、
「7時10分」
と、彼女は答えた。
「それから学校まで歩いて間に合うかな?遅くない?」
と、私が不安げに言うと、
「ううん、早い(早すぎる)」
と、彼女は苦笑した。
じゃあ遅れるよりはいいから、それに乗ることにしようということになった。
そして帰ろうとすると、
「あっ、ゆきちゃん。どうしたの、送っていこっか?」
と、隣のクラスの顔見知りが声をかけてきた。
車だった。
それほど親しいわけではないし、ギャルかギャルでないかといえば、美白ギャルとでも言いたくなるような、私の少し苦手なタイプだったので、断ろうと思ったが、押しに負けてしまった。
私とクラスメイトは、後部座席に乗り込んだ。
車の彼女も、友達と二人連れだった。
前の方の席から、
「あっ、グロスはしちゃいけないのに~」
「今日はもうラーメン食べなければ大丈夫~」
という会話が聞こえてきた。
明日の卒業式では、派手なメイクをしないようにとクラスで決めたのであろう。
彼女は、毎日夜遅くに主な食事をしていて、それはラーメンが多いらしかった。
家の近くに車が来て、通り過ぎるか過ぎないかという時にハッと気づき、
「あっ、ここで止めてくださ~い!」
と、私は言った。
しかしなかなか車は止まらず走り続け、かなり過ぎた所でやっと止まった。
見知らぬ商店街へ来てしまった。
白い街灯と、居酒屋の明かりが寂しく辺りを照らしていた。
家まで大分歩かないとならないなぁ、と思った。
でもまぁ、車は直進してきたのだし、逆方向に真っ直ぐ歩いていればいつか着くさ、と思い、そうすることにして、
「ありがとう」
と言って車を降りた。
あまり乱暴にしては失礼だと思い、静かに車のドアを閉めた。
しかし思いのほかドアが重い車で、半ドアになってしまった。
私はまたドアを開けて、今度は少し力を込めて閉めた。
車はまた、寂れた商店街を走って行った。
在校生は、卒業生のための準備をするように言われていた。
式では、在校生の態度や服装によって、クラスごとに点数をつけて競い合うことになった。
各クラスがそれぞれに工夫をした。
隣のクラスでは、「卒業生、入場」という声と共に、全員が一斉に服装を整える作戦だった。
「あいつらの作戦、上手くできてるなぁ」
と、こちらのクラスの誰かが言った。
卒業生入場と同時に服装を直すということは、明らかに卒業生のためにそうしているというアピールであって、なるほど効果的かもしれない、と思った。
私たちのクラスは、何の捻りもなく、ただイイコにすることに撤していた。
それとは別に、私たちは全員が緑川の大吟醸を1リットルずつ、持ってくるように言われていた(念のため書き添えるが、緑川というのは日本酒の名前である)。
これはクラスの点数には関係なく、在校生全員に言われたことである。
それで卒業記念品を作るらしい。
お菓子とか、そんなモノだと思う。
卒業式の前日になっても、私はまだ緑川を用意していなかった。
朝、早めに家を出て登校途中で購入して行こうと思い、バスの時間を調べるために、バス停へ向かって夜道を歩いた。
上に架った高速道路のオレンジ色の光が道を照らしていたので、それほど真っ暗というわけでもなかった。
バス停への道の途中、クラスメイトがしゃがみこんでいるのを見つけた。
この子は身体もびっくりするほど細いし、たまに貧血を起こしたりする。
「どうしたの、大丈夫!?」
と、クラスメイトの隣にしゃがみこんで様子を見ようとすると、
「…ガスが…」
と、彼女は答えた。
「飛行船を見つけて乗っちゃったの。私飛行船とか興味あって…でも飛行船ってガスで動くでしょう?」
見れば、クシャクシャに潰れた銀色の飛行船と、その部品の風船のようなものが落ちていた。
「飛行船のガスって何だっけ?」
私は、ヘリウム?と思いながら尋ねた。
「昔はヘリウムだったんだけどね、今は…」
彼女は二つのガスの名前を挙げた。
私も知っている名前だった。
とにかくその飛行船は、二種のガスを混合して使用し、飛ぶものらしかった。
そして彼女はそれを吸ってしまったのである。
そういう会話をしていくらもしないうちに、小さなワゴン車が走って来た。
彼女は、
「あっ、習い事の迎えの車来たからもう大丈夫」
と、車に乗って行ってしまった。
テニスだか水泳だかバドミントンだかバレーだか、何かのスポーツを趣味でしているのだそうだ。
それから私はバス停へ着いて、時刻表を眺めた。
するとそこへクラスメイトがやって来て、
「もしかしてゆきちゃんもまだ買ってないの?」
と言ったので、私は肯定した。
「このバスで行こうかな」
と言って、よく見ると、そのバスでは緑川酒造を通り過ぎてしまう。
バス停に紐でぶら下げられた防水加工の時刻表を、ペラペラとめくって、緑川酒造で止まるバスを探した。
バスが見つかったので、
「あっ、これなら止まる」
と言って見ると、今度はそれは学校の最寄りのバス停に止まらない。
「役場前で降りて歩くしかないね」
と、クラスメイトが言った。
「役場前に何時?」
と尋ねると、
「7時10分」
と、彼女は答えた。
「それから学校まで歩いて間に合うかな?遅くない?」
と、私が不安げに言うと、
「ううん、早い(早すぎる)」
と、彼女は苦笑した。
じゃあ遅れるよりはいいから、それに乗ることにしようということになった。
そして帰ろうとすると、
「あっ、ゆきちゃん。どうしたの、送っていこっか?」
と、隣のクラスの顔見知りが声をかけてきた。
車だった。
それほど親しいわけではないし、ギャルかギャルでないかといえば、美白ギャルとでも言いたくなるような、私の少し苦手なタイプだったので、断ろうと思ったが、押しに負けてしまった。
私とクラスメイトは、後部座席に乗り込んだ。
車の彼女も、友達と二人連れだった。
前の方の席から、
「あっ、グロスはしちゃいけないのに~」
「今日はもうラーメン食べなければ大丈夫~」
という会話が聞こえてきた。
明日の卒業式では、派手なメイクをしないようにとクラスで決めたのであろう。
彼女は、毎日夜遅くに主な食事をしていて、それはラーメンが多いらしかった。
家の近くに車が来て、通り過ぎるか過ぎないかという時にハッと気づき、
「あっ、ここで止めてくださ~い!」
と、私は言った。
しかしなかなか車は止まらず走り続け、かなり過ぎた所でやっと止まった。
見知らぬ商店街へ来てしまった。
白い街灯と、居酒屋の明かりが寂しく辺りを照らしていた。
家まで大分歩かないとならないなぁ、と思った。
でもまぁ、車は直進してきたのだし、逆方向に真っ直ぐ歩いていればいつか着くさ、と思い、そうすることにして、
「ありがとう」
と言って車を降りた。
あまり乱暴にしては失礼だと思い、静かに車のドアを閉めた。
しかし思いのほかドアが重い車で、半ドアになってしまった。
私はまたドアを開けて、今度は少し力を込めて閉めた。
車はまた、寂れた商店街を走って行った。
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